「気分がコロコロ変わる…」
「これって心の病気?」
気持ちの浮き沈みが激しくなる病気には、「双極性感情障害」が考えられます。
心当たりにある症状がないかチェックしてみましょう。
病院の受診をすすめる目安も解説します。
監修者
経歴
福島県立医科大学卒業
「働く人を支える」薬に依存しない医療を展開する「BESLI CLINIC」を2014年に協同創設、2030年を基準に医療現場から社会を支える医療経営を実践しています。
産業医視点からビジネスマン・ビジネスウーマンを支えております。生薬ベースの漢方内科での経験を活かし、腹診を含めた四診から和漢・井穴刺絡などの東洋医学を扱い、ホルモン、生活習慣をベースに身体から心にアプローチする診療を担当。米国マウントサイナイ大学病院へ留学、ハーバード大学TMSコースを修了。TMSをクリニックへ導入、日本人に合わせたTMSの技術指導、統括を行っています。
気分がコロコロ変わる病気「双極性感情障害」
“気分がコロコロ変わる”という症状がでる代表的な病気として「双極性感情障害」が考えられます。
「双極性感情障害」は、
- ハイテンションで活動的になる
- 気分が落ち込んで、生きるのがつらくなる
といった状態を繰り返す、脳の病気です。
一時的な気分の浮き沈みとは異なり、これらの感情を自分でコントロールすることができません。
感情の波が激しく、全能感によって誤った決断をするケースも多いため、日常生活に悪影響を及ぼしやすい病気といえます。
「双極性感情障害」はどんな人に発症しやすいの?
10~30歳の人が発症することが多いです。
特に、
- 活動的な人
- 物事に熱中しやすい人
- 親切な人
- もともと人付き合いが良好な人
- ストレスに弱い人
に多い傾向があります。
双極性感情障害の症状セルフチェック
双極性感情障害は、「躁状態」と「うつ状態」を繰り返します。
以下のそれぞれの症状に当てはまる場合は、この病気を疑う必要があります。
▼「躁状態」の症状
- 気分が高まり、元気になったように感じる
- 寝ていなくても活動できる
- 急に自分が偉くなったように感じる
- 口数が増える
- 様々な考えが頭に浮かぶ
- 何でもできそうな気持ちになる
- 怒りっぽい
- じっとしていられない
- 浪費してしまう
▼「うつ状態」の症状
- 気分が落ち込みやすい
- 寝ている時間が多い
- 何事も楽しめない
- 疲れやすい
- 寝つきが悪い
- やる気が出ない
- イライラしやすい
- 食欲が湧かない
- 決断力が低下する
- 自分を責める
- 死にたいと思う
本人には「自覚症状がない」ことも多い
双極性障害の場合、「うつ状態」でひどく落ち込んでも「躁状態」になると改善するため、「一時的な気分の波かもしれない」と思ってしまう人もいます。
仕事や人間関係に悪影響が及ぶことも…
躁状態になると、全能感に包まれて「自分には何でもできる」「自分は偉い」と感じることも多いです。
その結果、
- 家族や友人の気分を害するような言葉を発する
- 衝動的に大きな決断をする
といった行動を起こし、家族・仕事・財産・信用等を失うケースもあります。
また、躁状態の後の「うつ状態」によって気分がひどく落ち込み、自殺を図ってしまう恐れもあります。
双極性感情障害になってしまう原因
双極性感情障害は、
- もともとの性格
- 遺伝的要因
- ストレス
- 環境(家庭、学校、職場など)
等がキッカケとなり、脳の「神経伝達物質」のバランスが崩れることで発症すると考えられています。
しかし、現段階で明確な原因は分かっていません。
双極性感情障害って改善できるの?
双極性感情障害は、病院で治療を受けることで症状の改善が期待できます。
ただし、処方された薬を自己判断で中断すると改善が難しくなります。
薬物療法を開始した場合は、医師の指示に従ってきちんと薬を服用しましょう。
改善のために「自分でできること」
- 十分な睡眠時間を確保する
- 規則正しい生活を送る
- ストレスをこまめに発散させる
といった点を心がけると、症状が落ち着きやすいといわれています。
また、医療機関での心理社会的療法を通し、「ストレスと上手に向き合う」「今の気分の状態を正しく把握する」といったことができるようになると、より改善しやすくなります。
精神科を受診する目安
- 気分の浮き沈みが1~2週間以上ある
- 誇大妄想を抱いている(躁状態の悪化)
- 寝なくても活動できる状態が続いている
- うつ状態で気持ちがひどく沈んでいる
- 日常生活に支障が出ている
上記に当てはまる場合には、早急に精神科で受診してください。
病院での治療を受けずに放置すると、再発を繰り返したり、症状が悪化したりするリスクが高まります。
特にうつ状態が悪化するとネガティブな思考に偏るため、自殺を図ってしまう恐れもあります。
医師に伝えるポイント
- 「躁状態」が疑われる症状の有無
- 双極性感情障害を患っている親族の有無
等を伝えると、医師が状態を把握しやすいです。
また、客観的な状況を伝えるとよりスムーズに診察が進みます。
患者本人は自分が病気だと気付いていないケースも多いため、できるだけ「ご家族」や「周囲の方」が同伴するようにしてください。
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双極性感情障害の治療法
精神科では、
- 心理社会的療法
- 薬物治療
などで、症状の改善を図ります。
完治を目指すというより、自分で症状を調節しながら再発予防を目指すケースが多いです。
早めに治療を開始することで、「通常の生活を送れる状態」にまで改善しやすくなります。
治療法① 心理社会的療法
病気を受け入れ、自分で調節できるようにするために行う治療法です。
\心理社会的療法の例/
▼心理教育
自分自身が抱えている病気の特徴を学び、再発の兆候を把握する治療法です。
ストレスに対する対処法も学びます。
▼家族療法
ご家族の方にも双極性障害に対する知識と理解を深めてもらい、協力して病気と向き合えるようにする治療法です。
▼対人関係・社会リズム療法
対人関係などから発生するストレスの軽減を図ったり、社会生活のリズムを整えたりする治療法です。
▼認知療法
うつ状態の場合、考え方がネガティブになり小さい失敗でも自分を責めがちです。
できなかったではなく「ここはできた」というように、ネガティブ思考をポジティブ思考に変えていくことなどの取り組みが行われます。
治療法② 薬物療法
「気分安定薬」等の向精神薬を用いる治療法です。
気分安定薬は、躁状態とうつ状態の治療と予防に有効と考えられています。
再発予防には、「周囲の方のサポート」が大切です
双極性感情障害の再発予防には、周囲の人々との「良好な関係の構築」が大切です。
周囲の方は、無理のない程度にサポートしてあげてください。
気分の波に振り回されて気持ちが折れる場面も多々あると思いますが、患者さん本人が病気と向き合えるようになることで、少しずつ改善がみられてきます。
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合わせて読みたい
2022-02-17
若い女性に多い“気分の浮き沈みが激しくなる病気”について、お医者さんに聞いてみました。
「気分の浮き沈みが激しい…」
「他者に対して苛立ちやすい…」
といった人は、心の病気の影響が考えられます。
改善するための方法や、精神科で受診する目安、治療法についても解説します。
若い女性に多い「気分の浮き沈みが激しくなる病気」
若い女性に多い“気分の浮き沈みが激しくなる”代表的な病気として「非定型うつ病」が考えられます。
非定型うつ病の場合、うつ病とはいえ楽しい気分のときもあります。そのため、本人や周りの人もうつ病だと気付いていないケースが多いです。
「非定型うつ病になりやすい人」の特徴
幼少期、手が掛からない子であった
自己主張が苦手
悩みを一人で抱え込む
責任感が強い
プライドが高い
優しい
他者からの言葉を気にし過ぎる
人前に立つと緊張する
他者に甘えられない
非定型うつ病の直接的な原因は明らかになっていませんが、家庭内の心理的・環境的な問題が関係していると考えられます。
非定型うつ病の症状セルフチェック
気分の浮き沈みが激しい
他者に対して苛立ちやすい
過食傾向になりやすい
好きなことや興味があることは楽しめる
過眠傾向
といった症状がみられる場合、非定型うつ病が疑われます。
症状① 気分の浮き沈みが激しい
気分が落ち込んでいるときと落ち込んでいないときの差が大きく、気持ちが沈んでいないときは何事もないようにけろっとしているケースが多いです。
症状② 他者に対して苛立ちやすい
自分に対して苛立つのではなく、自分以外の他者(会社の同僚や上司等)に対して苛立つケースが多いです。
症状③ 過食傾向になりやすい
食べることで気分を紛らわせようとして過食になるケースが多いです。
症状④ 好きなことや興味があることは楽しめる
うつ症状が出現していても、自分が好きなこと・楽しいと思えること・興味があること等には進んで取り組めるケースが多いです。
症状⑤ 過眠傾向
「いくら寝ても眠くて仕方ない」という過眠状態になる傾向があります。いつも眠いため怠けていると思われがちです。
身体が鉛のように重く感じるため、「疲れてずっと横になっている」という状態が過眠傾向につながるとも考えらえています。
非定型うつ病の改善のためにできること
非定型うつ病を改善するためには、
規則正しい生活を送る
軽めの運動を習慣づける
「気分が落ち込んだ出来事」をメモしておく
できることは通常通り行う
といったことを行うとよいでしょう。
① 規則正しい生活を送る
同じ時間に起きて朝の光を浴びる
決まった時間に食事を摂る
といった行動を習慣づけて、体内リズムを整えましょう。
1日3食、規則正しく食事を摂ることで、定期的に脳内に血糖が送られて脳が目覚めやすくなります。
一方、睡眠不足・夜更かし等の不規則な生活を続けていると、自律神経の働きが乱れたり、脳内機能に異常が生じたりする恐れがあります。
眠る直前の「スマホ」や「コーヒー」は控えよう
テレビ、パソコン、スマホ等の画面から放出される「ブルーライト」には脳を覚醒させる作用があるため、睡眠を阻害しやすいです。
また、寝る前にコーヒーを飲むと「カフェイン」の作用で覚醒し、体内のリズムが崩れる場合があります。
② 軽めの運動を習慣づける
ウォーキング
ストレッチ
ヨガ
等の運動を毎日続けるようにしてください。
「掃除」や「片付け」で体を動かすこともおすすめです。
運動により自律神経の働きが活性化され、脳内の神経伝達物質の機能も改善されると考えられています。
③ 「気分が落ち込んだ出来事」をメモしておく
気分が落ち込んだ出来事を書き留めておくと、自分の心の状態を把握しやすくなり、症状改善につながると考えられています。
④ できることは通常通り行う
時間通り出勤して仕事をこなす
家事は最低限行う(掃除・洗濯など)
等を心がけてください。
目標を持って過ごすと精神が覚醒され、体内リズムの正常化につながると考えられています。
精神科で受診する目安
関心があったものに興味がなくなった
集中力が低下した
強い疲労感を感じる
睡眠障害等の症状が2週間以上続いている
といった場合は、早めに精神科を受診してください。
非定型うつ病が悪化すると感情の起伏が激しくなり、「他人を責めたりする」など言動が荒くなったりしやすいです。
また、気持ちがひどく落ち込んで自傷行為を行ってしまうケースもあります。
心の状態に不安があるときは、一度医師の診察を受けてみましょう。
お医者さんに伝えるポイント
症状が出現した時期
出現している症状
症状が出現するタイミング
症状が続いている期間
服用中の薬剤の有無
といったことを伝えると診察がスムーズに進行します。
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非定型うつ病の治療法
非定型うつ病は、
薬物治療
磁気刺激療法(TMS)
精神療法(認知行動療法、カウンセリング)
などを受けることで、症状の改善が期待できます。
治療① 薬物療法
抗うつ薬や出現している症状に応じて、抗精神病薬、抗不安薬等の薬を用います。
治療② 磁気刺激療法(TMS)
磁気を用いて脳に刺激を与え、抑うつ状態を改善する治療法です。
軽い頭痛や軽い吐き気など副作用が少なく、お薬よりも効果が高いことが特徴とされています。
治療③ 精神療法(認知行動療法、カウンセリング)
社会生活に対応できるよう、カウンセリングを通して本人の「考え方」や「行動の偏り」を調整します。
薬物療法やTMS治療とともに行われるケースが多いです。
非定型うつ病は「怠け」ではありません
非定型うつ病では、周囲の人はうつ病とは思わず「怠けているのではないか」と勘違いするケースもあります。
また、一生懸命やっていても評価されないことが多いため、つらい状況に陥りやすいです。
非定型うつ病は、前向きに治療を受けることで改善が期待できる病気です。まずは医療機関で診察を受け、ご自身の状態をしっかりと把握しましょう。
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▼参考
社会医療法人 博友会 女性がなりやすい「非定型うつ」とは?特徴や原因を解説
長崎県 長崎こども・女性・障害者支援センター 心の健康ってなに?
合わせて読みたい
2022-11-29
いろいろ考えすぎて眠れない…なぜ?
考えすぎて眠れなくなる原因について、お医者さんに聞いてみました。
心を落ち着かせる対処法も紹介しているので、ぐっすり眠りたい人は必読です。
なぜ?いろいろ考えすぎて眠れない…
なんらかの心配事があり、ストレスを感じていると「色々考えすぎて眠れない」という状態に陥りやすいです。
仕事での失敗を思い出してしまう
将来を不安に感じている
次の日に大事な会議や試験があり、緊張している
人間関係の悩みを思い出してしまう
上記のような状態でストレスを感じると、「コルチゾール」というストレスホルモンが分泌されます。
すると、心拍数や血圧が上がり、ストレスから身を守る「戦闘モード」に入るため、眠りづらくなります。
また、「早く眠らないと」と焦ることで、余計に緊張して眠れなくなることもあるでしょう。
心を落ち着かせる「5つの対処法」
考えを文章にしてみる
呼吸を整える
ツボを押す
アロマを取り入れる
筋弛緩法を行う(筋肉の緊張を和らげる)
心を落ち着かせて眠りやすくするために、上記の5つの対処法を試してみましょう。
対処法① 考えを文章にしてみる
寝る前に悩み事や不安を紙に書き出しましょう。
頭の中を整理することにより、考え事を止めることにつながります。
対処法② 深呼吸をする
ベッドに仰向けになって、お腹を意識しながら深呼吸をしましょう。
吸うときよりも時間をかけて、ゆっくりと息を吐いてください。
深呼吸は体をリラックスさせるため、眠りにつきやすくなります。
対処法③ ツボを押す
就寝の30分~1時間ほど前に、頭頂部の「百会」というツボを押しましょう。
両手の指先や手のひらを使って、息を吐きながら、気持ちいいと感じる強さでツボを刺激してください。
百会というツボは、「自律神経を整えてストレスを軽くする働き」や、「全身の疲れを和らげる働き」があります。
対処法④ アロマを取り入れる
眠れないときはアロマの香りでリラックスしましょう。
ディフューザーを使ってアロマを焚く
スプレータイプのアロマを枕に吹きかける
などの方法がおすすめです。
▼心身の緊張をほぐしてくれる香り
ラベンダー、スイートマジョラム
▼神経を落ち着かせる香り
ベルガモット、ローズゼラニウム
対処法⑤ 筋弛緩法を行う(筋肉の緊張を和らげる)
背もたれに背中をつけないように、椅子に腰かける
腕・足・お腹の順番で筋肉に力を入れる
10秒間キープする
15~20秒かけて脱力する
筋弛緩法は、筋肉の緊張を和らげる効果があるので、リラックスして入眠しやすくなります。
病気の可能性はあるの?
「いろいろ考えすぎて眠れない」以外にも何か不調がある場合は、病気が疑われます。
下記の症状に心当たりはないですか?
倦怠感(体がだるい)
動悸
頭痛
肩こり
めまい
一日中やる気が出ない
考えられる3つの病気
病名
どんな病気?
自律神経失調症
自律神経の乱れにより、不眠・めまい・肩こりなどを招く。
うつ病
ストレスや疲労が原因で、不眠・倦怠感・意欲低下などを招く。
不安障害
日常生活に支障が出るほどの強い不安があらわれる。
これらの病気は、精神的ストレスや疲労、脳内の機能異常など、様々な原因が考えられます。
感情や意欲などを調整する脳の働きに不調が生じたり、自律神経が乱れたりすることにより、発症します。
不眠で生活に支障が出ている場合は病院へ
眠れないせいで「やる気が起きず仕事や学校に行けない」など、日常生活に支障が出ている場合は、何らかの病気が疑われます。
早めに医療機関で相談してください。
病気を放置すると治療に時間がかかるようになり、再発のリスクも高まるため、早急な治療が必要です。
何科で相談すればいい?
精神的な症状が強く出ている場合は、「精神科」で相談するとよいでしょう。
体の不調を伴う(頭痛・動悸など)場合は、「心療内科」で受診してください。
※両方の診療を行っている医院・クリニックもあります。
病院で行われる治療法
抗うつ薬・抗不安薬などの薬物療法
行動療法・暴露療法などの精神療法
病院では、上記のような治療が行われます。
不眠症状がある場合は、睡眠導入剤などの薬が処方されるため、入眠しやすくなるでしょう。
精神科を探す
心療内科を探す
※記事中の「病院」は、クリニック、診療所などの総称として使用しています。
▼参考
厚生労働省:不眠症
厚生労働省:不安障害
厚生労働省:うつ病
MSDマニュアル家庭版:精神障害の治療