幼児~小学生の髄膜炎の症状を、お医者さんに聞きました。
なぜなってしまうのか、親はどう対処すればいいのかも解説します。
命にかかわる危険や後遺症が残るケースもあるので、しっかり読んで対処しましょう。
監修者
経歴
公益社団法人 日本小児科学会 小児科専門医
2002年 慶應義塾大学医学部を卒業
2002年 慶應義塾大学病院 にて小児科研修
2004年 立川共済病院勤務
2005年 平塚共済病院小児科医長として勤務
2010年 北里大学北里研究所病原微生物分子疫学教室勤務
2012年 横浜市内のクリニックの副院長として勤務
2017年 「なごみクリニック」の院長として勤務
2020年 「高座渋谷つばさクリニック」院長就任
髄膜炎とは
基本的に「髄膜炎」と呼ばれるのは、感染症の重症化した状態です。
風邪やインフルエンザを引き起こす細菌やウイルスが、髄膜(脳や脊髄を覆う膜や髄液)に入り込み、炎症を起こしている状態です。通常、細菌やウイルスが入り込まないようにバリアがあります。しかし体が弱り、ウイルスや細菌にそれが突破されてしまい髄膜まで進出すると、炎症を引き起こし「髄膜炎」となります。
特に細菌による髄膜炎は、短時間で命にかかわる危険を及ぼすこともあります。
子ども髄膜炎になってしまう原因
様々な病気の菌が、脳の周りにある髄膜に侵入して、髄膜炎を発症します。
髄膜炎を引き起こすリスクがある子どもの病気
- インフルエンザ
- 手足口病
- 水疱瘡
- おたふく風邪 など
子どもの髄膜炎サイン
髄膜炎になると強い頭痛・高熱・吐き気などの症状が現れます。
いつもの風邪の時より「症状が重い」「なにかおかしい」と感じた場合は、早めに病院を受診しましょう。小さな子どもほど、一気に症状が進み重篤化することがあるのが髄膜炎です。
初期症状
- 発熱(生後3ヶ月以内は38度以上。それ以上のお子さんは40度以上は特に注意する)
- 頭痛(かなり強い頭痛・首を動かして痛む)
- 嘔吐
症状が進むと…
- ぐったりしている
- 動けない
- 冷や汗をかいている
- 意識がない、途切れる
さらに症状が悪化すると…
髄膜炎かも?親はどう対処する?
早急に病院受診が必要です。深夜でも救急で受診してください。
小児科もしくは脳神経内科を受診しましょう。
まずは近くの小児科を受診するのがよいでしょう。診察後、脳神経内科の受診をすすめられることもあります。
細菌性髄膜炎の場合、治療が遅れると最悪は死亡します。また、命は助かっても脳や体に障害が残る場合もあります。(ウイルス性髄膜炎では、後遺症が残ることは、ほぼありませんが注意は必要です。)
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髄膜炎の治療
細菌性髄膜炎の場合には抗菌剤の投与と生命を維持するための対症療法(酸素投与など)が行われます。ウイルス性髄膜炎などでは、点滴など対症療法となります。
基本的に、入院が必要
基本的には髄膜炎が疑われる場合は、入院治療が行われます。
治療の予後の傾向
細菌性髄膜炎の場合、重症化が多く予後も不良となるケースが多いです。劇場型というタイプになると発症して1日で症状が進み死亡することもあります。
障害が残るケースも多く、知能や運動機能に障害が残る子どもや難聴や視力低下などを発症するケースもあります。小さなお子さんの場合、成長に従って知能障害が判明するケースもあります。
髄膜炎を予防する方法
細菌性髄膜炎の原因となりやすいヒブと肺炎球菌は、現在、予防接種で予防ができます。予防接種は、忘れず受けるようにするのがおすすめです。
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2022-02-18
おたふく風邪は、冬から初夏ごろまでが感染が多い時期です。
大人にうつると重症化しやすい傾向があります。
「どういう感染ルートからうつるのか」「いつからいつまで感染するのか」をお医者さんに聞いてみました!
おたふく風邪の「感染経路・期間」
おたふく風邪の感染ルートは「飛沫感染」と「接触感染」の2つです。
飛沫感染の例…ウイルスが入った咳を吸い込む
接触感染の例…ウイルスが付着した手が体に触れる
人にうつしてしまう期間は、耳下腺の腫れがでる数日前~腫れが引くまでです。
おたふく風邪の病原体はムンプスウイルス(mumps virus)です。このウイルスの潜伏期間は2~3週間。「おたふく風邪だ」と気がつく前から、ウイルスを排出しています。
▼おたふく風邪の経過(目安)
症状
日数目安
潜伏期間
なし
2~3週間程度
発症
耳の周り・あごの下・舌の周りなどに腫れ、高熱
女性:下腹部痛、吐き気、不正出血
男性:急激な精巣の痛み・腫れ・発熱・倦怠感
1~2週間程度
(発熱は2〜3日程度、痛みのピークは腫れが出てから数日間)
回復
上記症状が少しずつ改善される
おたふく風邪の「予防方法は?」
おたふく風邪の原因のムンプスウイルスは感染力がとても高いです。免疫がない人は容易に感染します。そのためおたふく風邪から子どもを守れるのは、現在予防接種だけです。
また、おたふく風邪が流行る時期はマスクの着用・手洗い・うがいを行わせましょう。
家族が感染したら…どうすれば?
もし家族のうちの誰かが感染してしまったら、他の人はマスクの着用・手洗い・うがいを徹底して予防に努めてください。
ただし、上述の通り、ムンプスウイルスの感染力は非常に強く、完璧に予防することは困難です。
これまで、おたふく風邪にかかっていないのであれば、予防接種を受けることが最善といわれる予防策です。過去に一度おたふく風邪にかかっている場合は、免疫ができているので、基本的には再びかかることはありません。
もし感染してしまった場合は、消化に良いものを食べ、自宅で安静に過ごしましょう。
予防接種が大切です
基本的には、子どもが1歳を過ぎたら、予防接種を受けさせましょう。予防接種を受ければ、万が一発症しても軽い症状で済みます。
1回の予防接種では免疫がつかない場合があるので、2回接種を行ってください。日本では任意予防接種ですが、1歳以上であれば予防接種を受けられます。費用目安は5000円前後であることが多いです。(医療機関や為替の変動によっても異なります。)
おたふく風邪の予防接種はなぜ任意なの?
ワクチン接種後の無菌性髄膜炎等の問題があり、1993年に定期接種は中止されました。
ワクチンの副反応はあるものの、重篤な副反応の頻度は0.1%未満ですので、安全性は高いと考えて良いでしょう。
「子ども」は軽症で済むことが多いけど…
おたふく風邪は、3~6歳の子どもに多いです。
予後は良好で対症療法で快方に向かうことが多いです。
しかし、症状があきらかな患者のうち10%程度が髄膜炎を発症すると推定されているため、油断は禁物です。その他にも脳炎・難聴などの合併症も一定数あります。
「大人」が感染すると、重症化しやすい
おたふく風邪は、大人にもうつります。
成人が感染すると症状が重くなる傾向があります。
女性の場合は卵巣炎・男性の場合は精巣炎を合併することもあります。すぐに回復した場合は問題ないこともありますが、悪化すると不妊につながることがあるので、注意が必要です。
▼卵巣炎の症状
下腹部痛・吐き気・不正出血など
→すぐに婦人科を受診してください。
▼精巣炎の症状
精巣の痛みや腫れ・発熱・倦怠感など
→すぐに泌尿器科を受診してください。
特に、妊婦さんは要注意!
また、妊娠早期で感染すると流産することもありますから、大人になってからの感染は注意が必要です。
ただし「基本的に2度はかからない」
何度もおたふく風邪にかかるといった人がいますが、おたふく風邪は1度かかると免疫ができるので、通常は2度はかかりません。
※稀に、免疫ができないと、再びかかる人もいます。
おたふく風邪の免疫ができているかどうかは、検査すればわかります。
おたふく風邪の免疫があるかどうか自分ではわからないという方は、医療機関で血液検査をして、抗体があるかを検査しましょう。
2度かかったと思ったら「反復性耳下腺炎」かも
おたふく風邪と間違いやすい症状が出る病気に「反復性耳下線炎」があります。おたふく風邪にかかったことがある/予防接種をしたのにおたふく風邪のような症状が出ている場合、この病気であることが多いです。
▼「反復性耳下腺炎」の症状の特徴
片側だけが腫れやすい
熱はでない場合が多い
痛みは軽く、数日で完治するが、何度も繰り返しかかる
※反復性耳下腺炎は、人から人にはうつりません。
おたふく風邪がうつってしまったときの対処法
自宅で安静に過ごしてください。お食事は消化の良いものを食べましょう。口を開けるのがつらい期間は、流動食がおすすめです。
スープ、プリン、ゼリー、お粥、うどんなどが良いでしょう。ただし、酸っぱい食べものは、唾液腺を刺激して痛みが出るので、避けてください。
学校・仕事にいってもいいのはいつから?
登園・登校・出社できるのは、腫れが出た後5日を経過し、かつ全身状態が良好になってからとなっています。
このころには、熱も下がり、食欲も出ているはずです。それまでは安静に過ごしましょう。
おたふく風邪の「特に注意すべき症状」
危険な合併症を引き起こしている可能性がある症状として
頭痛が強い
嘔吐する、嘔吐を繰り返す
意識障害
高熱が3〜4日以上続く
耳下腺の腫れが1週間以上治らない、赤く腫れている
などが挙げられます。
合併症として難聴・内耳炎・髄膜炎・睾丸炎・乳腺炎などを引き起こしている場合があります。特に難聴は治らない場合もあります。
これらの症状がある場合は、夜間でも救急で受診しましょう。
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▼参考
おたふくかぜワクチンの接種対象者・接種方法及びワクチン - 厚生労働省
流行性耳下腺炎(おたふくかぜ) - 厚生労働省
流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ) - 国立感染症研究所
おたふくかぜワクチンについて - 国立感染症研究所
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2022-04-01
子どもが「片方の耳の下が痛い」と訴える。
腫れているけど、熱はないみたい…これは何?
もしかして「反復性耳下腺炎」もしくは「おたふく風邪」になっているかもしれません。
それぞれ、症状が似ていますが、対処法が異なります。注意しましょう。
考えられる、2つの原因
反復性耳下腺炎
おたふく風邪
特徴
何度も発症する
耳下腺の腫れのみで、発熱しないことが多い
基本的に、1度かかったらもうかからない
耳下腺の腫れに加え、発熱や倦怠感がある
うつるか
うつらない
うつる
登園登校
可能。
激しい運動やプールは、疲労が大きいので、腫れが引きまでは休ませた方が良い
不可。
耳下腺の腫れ発生から5日経過し、さらに全身症状が良くなるまでは登園・登校不可
発熱がない場合は、「反復性耳下腺炎」だと考えられます。
ただしおたふく風邪と症状がよく似ているので、慎重に行動する必要があります。
ケース1.「反復性耳下腺炎」
「反復性耳下腺炎症」は、風邪をひいたり、病気をしたり、体が弱った時に発症する場合もあります。
乳幼児期から10歳ごろの子ども(2〜5歳で初めて発症するケースが多い)に多いです。
耳下腺(耳の下にある唾液腺)が腫れます。
1度かかったら終わりではなく、何度も繰り返し発症します。
年に何回も耳下腺が腫れる人もいます。免疫がつき、体が強くなってくると頻度は少なくなります。
原因
はっきりとした原因はわかっていませんが
ストレス・疲労の蓄積
ウイルス・細菌の感染
虫歯や口の中での雑菌感染
などで、免疫力が低下していることが要因だと考えられます。
症状の特徴
発熱はないことが多い(高熱になることはほぼない)
耳下腺が腫れる(片耳、もしくは両耳)
食べ物を飲み込むときに痛む
早く治す方法が知りたい!
体の免疫が下がっているときに発症しやすいので、ゆっくり安静にして過ごしましょう。
痛みがつらいときは、濡れタオルなどで冷やすと楽になります。基本的には、2~3日で自然治癒します。
ケース2.「おたふく風邪」
「おたふく風邪」は、3〜6歳くらいの子どもに多いです。
おたふく風邪のワクチン接種前におたふく風邪の患者と接触すると感染しやすくなります。
潜伏期間(2~3週間)ののち発症します。
子どもの場合、症状が軽いことが多いですが、「髄膜炎」や「難聴」、「膵炎」などの合併症を引き起こすことがあります。
ワクチンを接種していると発症しても軽度で済むことが多く、発症しても気がつかない人もいます。
原因
ムンプスウイルスによって発症します。
症状の特徴
発熱する
倦怠感
耳下腺が腫れる(片耳、もしくは両耳)
食べ物を飲み込むときに痛む
早く治す方法が知りたい!
おたふく風邪に感染したら、ゆっくり休ませるようにしましょう。
症状が耳下腺の腫れのみで軽く済む人もいますが、体はウイルスに感染し、戦っています。安静にしてゆっくり休まないと、疲労やストレスで重症化する場合もあります。
痛みがつらいときは、濡れタオルなどで腫れているところを冷やすとよいでしょう。
現在、おたふく風邪に対する特効薬はありません。基本的に1週間~2週間で自然治癒します。医療機関では対症療法(つらい症状を緩和する治療)がとられます。
見分け方は?「反復性耳下腺炎」と「おたふく風邪」
発熱がなく、耳下腺の腫れのみであれば、「反復性耳下腺炎」の可能性が高いです。
発熱・倦怠感があるときば、「おたふく風邪」の可能性が高いです。
おたふく風邪を発症した人と接触があった場合は、おたふく風邪が濃厚です。
ただし、おたふく風邪は一度かかれば抗体ができ、2度は感染しません。過去におたふく風邪にかかった子どもは、「反復性耳下腺炎」だといえるでしょう。「反復性耳下腺炎」の場合は、何度でも感染します。
ただし、自分ではどちらかわからない場合は「おたふく風邪」だと思って行動しなければいけません。
保育園や学校に行ってもいい?
「おたふく風邪」はうつるため、休む必要があります。
登園・登校ができるようになるのは、「腫れが出た後5日を経過し、かつ全身状態が良好になってから」です(厚生労働省による感染症対策ガイドライン)。
どっちかわからないときは…どうすれば?
「反復性耳下腺炎」はお休みする必要はありませんが、「おたふく風邪かどっちかわからない」ときは休まなければいけません。この場合、医療機関で血液検査をして「おたふく風邪の免疫を既に持っている」とわかったら、お休みしなくてもよくなります。
どっちかはっきりさせたいときは、病院で検査しよう!
医師は、発熱の有無や子どもの体調、季節や流行など複合的に見て判断します。血液検査で確定することが可能です。はっきりさせたい場合は、医療機関で血液検査を受けましょう。
「反復性耳下腺炎」は何度も繰り返すことがあるので、次腫れたときに休まなくてもすむように、血液検査を受けておくことをおすすめします。
ホームケアの方法
どちらの場合も、安静にしながら水分摂取をして、やわらかいものを食べましょう。
食事は、消化のよいおかゆ・うどん・ゼリーなどがよいでしょう。
発熱していて、食欲がないときは、無理に食べさせなくても大丈夫です。水分補給を行い、脱水を避けてください。
避けたほうがよい食べ物
よく噛まないといけない硬い食べ物は、痛みを感じたり、腫れを悪化させるので避けてください。しょっぱいものや酸っぱいものも避けましょう。
お風呂ははいってもいい?
高熱でふらついていなければ入浴可能です。
ただし、体が温まると、腫れが悪化したり、痛みが増す場合があります。シャワー浴がおすすめです。
腫れが痛いときは…
痛みがあるときは、保冷剤などをタオルにくるんでで冷やすと楽になります。
腫れている部分を無理に押したり、触ったりしないでください。
負荷がかかると腫れがおさまりにくくなります。
病院に行く目安
「反復性耳下腺炎」か「おたふく風邪」かはっきりさせたいときは、医療機関を受診しましょう。
その他にも
40度以上の高熱
脱水症状
意識低下
ぐったりしている
などの症状があるときは、早急に医療機関を受診しましょう。
高熱を放置すると、脳症や後遺症が出ることもあるため、医療機関で治療を受けましょう。
受診の際は、おたふく風邪の可能性を考え、マスクをして受診しましょう。
受診の際に、お医者さんに伝えること
診察時は、お医者さんに
症状が出始めた時期
症状の経過
症状の特徴
服用している薬の有無
などを伝えましょう。
どんな治療をするの?
「反復性耳下腺炎」も「おたふく風邪」も、どちらも対症療法(つらい症状を和らげる治療)が主体です。痛み止めや解熱剤の投与が行われます。
病院は何科にいけばいい?
子どもの場合は「小児科」、大人の場合は「内科」を受診しましょう。
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▼参考
NIID国立感染症研究所 流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)