「周りから臭いと思われてるかも…」
「臭かったらどうしよう…」
自己臭恐怖症について、お医者さんに聞きました。
症状や治療法についても解説します。
監修者
経歴
2010年名古屋大学医学部卒。2018年同大学院博士課程修了。医学博士。
名古屋大学医学部付属病院精神科などを経て、現在は複数の企業と契約し、労働者の総合的な健康状態の向上を目指して、助言や指導、研修や衛生講話を通じた安全衛生教育などといった産業保健活動に取り組んでいる。
また、総合病院心療内科にも勤務し、がん患者の終末期医療も担当している。その他、Webマガジン「現代ビジネス」で、メンタルヘルスを主なテーマに、記事の執筆・監修を行っている。
「臭いと言われてる気がする」自己臭恐怖症とは
自己臭恐怖症を発症すると、自分の体から嫌な臭いがしている気になり、「周りの人々に嫌われている」「避けられている」「不快感を与えている」などの悩みを抱えるようになります。
どちらかというと若い世代に発症することが多く、恐怖症の一つとも考えられます。
他人の何気ない行動が恐怖に
他人の何気ない言葉や行動の原因を、自分の臭いによるものだと捉えてしまうのです。
自己臭症を発症すると、
「周囲の人が、咳払いをする」
「会話中に、顔を背けられる」
「目の前の人が鼻をすする」
などの他人の行動が過剰に気になり、恐怖を感じてしまいます。
自己臭恐怖症の症状
- 実際に臭いを発しているわけではないのに、自分の口臭や体臭のせいで周囲の人から嫌がられているのではないかと妄想してしまう。
- 周囲の人の行動(せきばらいをする・鼻をかむ・鼻をすする・鼻に手を当てるなど)に対して、自分の臭いのせいではないかと過剰に反応してしまう。
- 周囲の人々の行動に対する恐怖心から、生活の質が低下していく。
- 重症になると社会生活から逃避しようとする。
- 人が密集する場所(教室・公共交通機関・エレベーターなど)に行くことや人との会話に大きな恐怖を感じてしまう。
- 臭いを抑制しようとして、気になる部分を1日に何度も洗う。
- 下着を頻繁に替える。
- 消臭剤を過剰に使うといった強迫的行為がみられる。
「私は本当に臭い」と感じることも
幻臭(※実際は存在しない臭いを感じること)を伴う場合もあります。
「うつ病」を併発することも
自己臭恐怖症をきっかけに、うつ病を併発すると、継続的に気持ちが落ち込み、好きだったことも楽しめなくなってしまいます。
「完璧主義者」は発症しやすい可能性あり
自己臭恐怖症は、完璧主義傾向の人がかかりやすいとも言われているため、カウンセリングや集団心理療法を行い、完璧主義傾向と上手に向き合えるように、サポートすることもあります。
病院は何科?
自分の臭いが気になる方は、日常生活が困難になる陥る前に、精神科や心療内科を受診し、相談しましょう。
自己臭恐怖症を発症すると、自分は周囲の人々から嫌がられる臭いを発していると強く思い込んでしまうため、自分の意思で精神科や心療内科を受診することは多くないようです。治療が難しいと言われてきた自己臭恐怖症ですが、根気よく治療を続ければ、通常の社会生活を送れるようになると期待されています。
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どんな治療をするの?
自己臭症の治療は、心理面へのアプローチが必要になります。
基本的には、面接による心理療法が行われます。
心理療法により、自分の体臭や口臭が原因で、周囲の人々に嫌われているのではないかという考えを修正していくのです。
人が密集する場所や、会話が必要な場面など、苦手な状況にあえて身を置き、恐怖心を徐々に取り除いていく暴露療法も、有効な場合があります。
お薬による治療を行うこともあります
心理面だけが原因ではなく、セロトニンという脳内神経伝達物質の不足も、原因の一つとも考えられています。そのようなときは薬物療法を行う場合もあるでしょう。
薬物療法
- セロトニン量を調節する抗うつ薬
- 不安・緊張を緩和する抗不安薬
など
自己臭恐怖症の症状が進行すると引きこもりがちになり、日常生活および社会生活が困難になる場合もあります。自分の臭いが気になる方は、そのような状態に陥る前に、精神科や心療内科を受診し、相談しましょう。
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2022-07-11
精神科に行くべきか悩む…。
自分でチェックする方法ってある?
「精神科に行った方がいい」と判断する目安をお医者さんに聞きました。
うつ病の場合、気持ちの落ち込みがひどくなるため、放っておくと命に関わることもあります。
心当たりのある症状がないか、チェックリストを確認してみましょう。
セルフチェック「精神科に行った方がいい」目安
気持ちの落ち込み・元気が出ない
気分に波がある
意欲・集中力の低下
喜びを感じなくなった
強い不安感
一日中、倦怠感が続く・疲れやすい
イライラしやすい
ネガティブな妄想が多い(監視されている・悪口を言われている等)
悪いことをしていないのに、自分が悪いと罪の意識を感じる
自信喪失(自分には価値がないと感じる)
人の前に出ると過剰に緊張する
些細なことにこだわる
よく眠れない(疲れていても眠れない)
幻覚・幻聴がみられる
食欲不振
過食
もの忘れが増えた
外出が億劫
自殺を考えることがある
上記の症状に3個以上あてはまる場合、心の病気の疑いが強くなります。
早めに精神科を受診しましょう。
正常な範囲での心の不調であれば、気分転換をしたり、ゆっくり休んだりすることで改善するケースが多いです。
しかし、休んでも改善が見られないときは、心の病気を疑った方がよいでしょう。
特に「気持ちの落ち込み」「不安感」「イライラ」等が2週間以上続くときは、我慢せず病院を受診してください。
すぐに病院へ!危険な症状
自傷行為をする(体を傷付ける等)
他者への暴力・暴言
食べられなくなり、栄養失調状態になっている
周囲の人が「自分の悪口を言っている」と感じる
眠れない
ネガティブな考えで頭がいっぱいになる
何事も集中できない
生きることがつらいと感じて「死にたい」と思ってしまう
上記のような症状には、「重いうつ病」などが疑われます。
放置すると命に関わる恐れもありますので、すぐに精神科を受診してください。
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セルフチェックは、どれくらいあてになるの?
セルフチェックは、受診の目安を確認したり、現状を把握したりする上で有効とされています。
リストにある症状を照らし合わせることで、うつ病など「病気の傾向」を知ることができます。
ただし、病気を診断できるものではないため、当てはまるものが多い方は医師の診察が必要です。
精神科で行われる診断方法
精神科では、丁寧な問診を行ったのち、
心理検査
身体検査
血液検査
などを実施し、検査結果を参考にしながら診断を行います。
精神科では、どんな治療をするの?
薬を使った治療
精神療法(症状の元になったことについて話し合う治療)
TMS治療(磁気による脳の治療)
精神科では、患者さん一人ひとりの症状に応じて、上記のような治療が行われます。
また、これらに加えて十分な休養をとることも大切です。
治療に使われる薬の種類
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)
ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)
など
薬物治療では、上記のような抗うつ薬が使用されることがあります。
治療の際は、患者さんの症状に合わせて薬を処方します。
治療期間の目安
個人差はありますが、早くても3~12ヶ月の治療期間が必要になることが多いです。
長引くと1年以上治療するケースもあります。
「うつ病」の場合、症状が治まるまでの治療期間は、「発症から受診までの期間と同じくらい」と考えられています。
そのため、早く改善させたい場合は、できるだけ早めに治療を開始する必要があります。
また、心の病気は悪化させないことが第一です。
死という最悪の事態を回避するためにも、放置しないようにしましょう。
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▼参考
厚生労働省 こころもメンテしよう 精神科ではどんな治療をするの?
厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト 精神疾患の早期発見・治療の重要性
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2022-07-11
精神科を受診するデメリットは?
通院歴が会社にバレるってホント?
精神科の治療に対し、誤解を抱いているケースも少なくありません。
精神科に関するよくある疑問にお医者さんがお答えしますので、受診に踏み切れない方は必読です。
精神科の受診「デメリットが心配」
「精神科に通っていることを周りに知られるのではないか」と考えてしまい、受診をためらってしまう。(30代女性)
「通院履歴が残るため、保険や住宅ローンを組むうえで不利になった」と、実際に受診した人から聞いた。(30代女性)
一度病院へ行くと、それ以降薬に頼りきってしまうのではないかと不安に感じる。(30代女性)
薬の副作用で車の運転・機械類の操作等ができなくなるものだとしたら、仕事に支障をきたしてしまう。(50代男性)
上記のような理由から、精神科の受診に不安を感じる方もいます。
気になる「受診のデメリット」について、次の項目からお医者さんが詳しく解説していきます。
不安① 通院歴が会社にバレることはある?
精神科に行ったことが会社の人にバレないか心配です…。
通院歴は個人情報なので、精神科を受診したことが会社の人に知られることはありません。
受診した医療機関・診療科目・治療内容は本人宛で個別に通知されます。
この通知は封がされており、会社は開けることを禁じられています。
会社側へ通知されるのは、「従業員が支払った医療費」のみです。
【体験談】精神科の通院を会社に知られたことはある?
どこまで会社側が分かるのか知りませんが、私はバレた(何かを言われた)ことはありません。(30代男性)
会社にバレることはありませんでしたが、体調をひどく壊し長期休暇をもらうときに自己申告しました。(50代男性)
不安② 住宅ローン(保険)が組めなくなる?
精神科で治療を受けると、家を買うときにローンが組めないというウワサを聞きました…。
住宅ローンを組む際、万が一に備えて「団体信用生命保険」の加入を必須としている金融機関が多いです。
心の病気に限らず、健康状態が悪い方は保険に加入できない場合があるため、住宅ローンを組むのが難しいケースもあります。
ただし、一般的にローンを組む際の病気の告知には「過去○年以内」と期限が定められています。
その期限より前に治療を受けていた場合は、告知する必要がありません。
全ての保険が組めないわけではない!
精神科に通っている方でも、
団体保険の種類を変える
保険会社を変える
などにより、保険に加入できることもあります。
うつ病などの精神疾患があっても加入できるものとしては、「ワイド団信」、「フラット35」などがあります。
ただし、加入者には「告知義務」があるため、保険を契約する際には精神科での治療の状況を正確に伝える必要があります。
※治療歴等を正しく伝えなかった場合、申請をしても保険金が支払われないこともあります。
不安③ 向精神薬を一度服用したら、止められなくなる?
精神科で処方される薬には、依存性があるって本当ですか?
薬は症状に合わせて注意深く処方されるため、医師の指示通りに服用していれば、薬に依存することはありません。
精神科では心の不調に対し、「抗不安薬」等を用いることもあります。これは、あくまでも症状の緩和を目的に行うものです。
うつ病の治療の場合、薬の処方に加えて「心と上手に向き合う方法」も同時に探っていくことで、「薬が必要のない状態」を目指していきます。
なお、自己判断で過剰に服用してしまうと、薬物依存に陥るリスクがあります。
「抗不安薬が効かない」と感じるときは、必ず医師に相談しましょう。
薬を使わない治療法もある!
薬を使わない治療法として、「認知療法」というものがあります。
これは、医師のサポートのもとで「心との向き合い方」「上手な行動のとり方」を習得する方法です。
特に症状が軽い場合には、すぐにお薬を使った治療を行わず、認知療法で様子を見るケースもあります。
不安④ 薬の副作用で仕事ができなくなるってホント?
薬の副作用で、仕事に悪影響が出ることはないですか?
薬による治療が、必ずしも仕事に支障をきたすとは限りません。
軽度の症状の場合には、副作用も弱い「軽めの薬」が処方されることもあります。
仕事に支障が出やすいのは、重い症状を緩和させるために「強い薬」を服用する場合です。
強い薬を服用すると「眠気」などの副作用が強く出るので、車の運転・機械の作業等が難しくなります。
副作用が心配な場合は、医師に相談してみましょう。
精神科を「受診したほうがよい目安」
眠れなくてつらい・眠れる気がしない日々が続いている
他者に自分の悪口を言われている気がする
体調が悪いわけではないのに、不安が強く落ち着かない・集中できない
緊張が取れず、心身ともに休まらない
物忘れが多い
細かいことばかり気になり、通常の生活が送れない
気分の波が激しく、自分でコントロールできない
朝方はつらく悲しいことが多く、夕方は楽になる
上記のような症状がある方は、早めに精神科を受診してください。
放置していると、精神的な閉塞感や焦燥感により、うつ病やパニック障害を発症することもあります。
症状の回復を促したり、悪化のリスクを減らしたりするには、早めの受診が大切です。
まずは「話を聞いてもらう」という感覚で受診してみよう
傷ついた心の傷を自分で癒せないときに、相談にのってくれるのが精神科です。
まずは、「つらいと感じている症状を聞いてもらう」イメージで受診しましょう。
人に話を聞いてもらうことで、客観的に自分を見られるようになり、今感じているつらさの根本的な原因が見つかることもあります。
それで気持ちが落ち着けばよいですし、何らかの病気の兆候があれば、医師が優しく教えてくれます。
心は、体とは違って傷が見えないため、他人にわかってもらうことが難しい部分です。
つらいときには我慢せず、相談してみることをおすすめします。
精神科を探す
▼参考
厚生労働省 うつ病