甲状腺を押すと痛い…。
もしかして、何かの病気?
「甲状腺を押すと痛い」ときに考えられる原因を、お医者さんに聞きました。
要注意の症状や病院を受診する目安も解説します。
監修者
経歴
福岡大学病院
西田厚徳病院
平成10年 埼玉医科大学 卒業
平成10年 福岡大学病院 臨床研修
平成12年 福岡大学病院 呼吸器科入局
平成24年 荒牧内科開業
甲状腺を押すと痛い…原因は「亜急性甲状腺炎」かも
甲状腺を押すと痛い場合、「亜急性甲状腺炎」を起こしている可能性があります。
亜急性甲状腺炎とは、甲状腺に炎症が生じることで、甲状腺の痛みや発熱などの症状が出る病気です。
甲状腺が硬く腫れるため、押すと痛みが起こります。
風邪のような症状から2~3週間経過後、突然発症するケースが多いと考えられています。
何らかのウイルスが原因ではないかと言われていますが、まだはっきりとは分かっていません。
「亜急性甲状腺炎」の症状チェック
- 甲状腺を押すと痛い
- 甲状腺が腫れている
- のどの痛みが左右の片側だけに現れる
- 全身の倦怠感がある
- 動悸・多汗
上記の症状に心当たりがある場合は、亜急性甲状腺炎が疑われます。
甲状腺の腫れは、左右一方のみの場合が多いですが、反対側に移行するケースもあります。
「亜急性甲状腺炎」かもと思ったら…
「甲状腺を押すと痛い」「腫れている」など、亜急性甲状腺炎が疑われる症状がある場合は、病院を受診しましょう。
軽症の場合は自然治癒することもありますが、一度、医師に診てもらうことをおすすめします。
「内分泌内科」または「耳鼻いんこう科」を受診しましょう。
かかりつけの「内科」がある場合は、まずはそちらで診てもらってもよいでしょう。
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病院ではどんな治療をするの?
血液検査や超音波検査により、「亜急性甲状腺炎」と確定した場合は、一般的に対症療法が行われます。
軽傷の場合は「炎症を抑える薬」「痛みを抑える薬」、重症の場合は、「副腎皮質ホルモン薬(ステロイド)」を使用することが多いです。
日常生活では、なるべく安静にして過ごそう
「甲状腺を押すと痛い」ときは、激しい運動などの体に負担がかかることはせず、なるべく安静にして過ごしましょう。
また、深呼吸(腹式呼吸)を意識して行うようにしてください。
酸素をたくさん取り込むことで自律神経のバランスが整い、体の免疫機能の低下予防につながると考えられます。
他にも…こんな病気が隠れているかも!
甲状腺を押すと痛い場合、亜急性甲状腺炎の他に、
- 急性化膿性甲状腺炎
- 橋本病(慢性甲状腺炎)
- 甲状腺腫瘍
といった病気が原因の可能性もあります。
▼病気の概要
急性化膿性甲状腺炎
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細菌感染により炎症が生じて、甲状腺に痛みが起こる状態。
|
橋本病(慢性甲状腺炎)
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慢性的に甲状腺に炎症が起きている状態。甲状腺ホルモンが作られにくくなる。
|
甲状腺腫瘍
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甲状腺に腫瘍が発生している状態。
|
原因① 急性化膿性甲状腺炎
急性化膿性甲状腺炎は、細菌に感染することにより、甲状腺に炎症が起きている状態です。
のどにいる細菌が甲状腺に感染することで、炎症が生じて痛みが起こります。
どんな人に多い?
子どもや若い人に多くみられます。
「急性化膿性甲状腺炎」の症状チェック
- 甲状腺の腫れ
- 甲状腺の痛み(疼痛)
- のどの辺りの皮膚が赤くなる(左側が熱を持ち赤く腫れるケースが多い)
- ものを飲み込むときの痛み(嚥下痛)
「急性化膿性甲状腺炎」かもと思ったら…
治療が必要なため、病院を受診しましょう。
病院では、抗生物質の服用や切開による排膿治療(※)が行われます。
※皮膚を切開して、溜まった膿を出す治療。
根本的な治療を行わないまま放置していると、何度も繰り返す恐れがあります。
病院は、「内分泌内科」「耳鼻いんこう科」を受診するとよいでしょう。
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原因② 橋本病(慢性甲状腺炎)
橋本病とは、自己免疫機能に異常が生じることで、甲状腺に慢性的な炎症が起きてしまう病気です。
慢性的な炎症によって甲状腺の組織が壊されてしまうことで、甲状腺ホルモンが作られにくくなります。
すると、新陳代謝が低下し、疲労感・息切れをはじめ様々な症状が現れます。
どんな人に多い?
20~40代の女性に多くみられます。
また、
等も発症リスクが高まると考えられています。
橋本病(慢性甲状腺炎)の症状チェック
- 甲状腺の腫れ
- のどの違和感
- 倦怠感・疲労感
- 冷え
- 体全体のむくみ
- 息切れ
- 舌の肥大
- 便秘
- 筋肉疲労・筋力低下
- 皮膚の乾燥
- 抜け毛
- 強い眠気
- 無気力で頭の働きが鈍くなり、物忘れが増える
- 無排卵・無月経
「橋本病(慢性甲状腺炎)」かもと思ったら…
早めに病院を受診し、診断を受けることをおすすめします。
放置していると、原因不明の倦怠感や疲労感等が続き、日常生活に悪影響が生じる恐れがあります。
橋本病は、「内分泌内科」「耳鼻いんこう科」で診てもらえることが多いです。
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日常生活での注意点
日常生活では、昆布やひじきなどの「ヨード(ヨウ素)」を多く含む海藻類などを過剰に摂取しないようにしてください。
ヨードを摂り過ぎると、甲状腺機能を低下させてしまう可能性があります。
普通に食べる分には問題ありませんが、食べ過ぎないように注意しましょう。
原因③ 甲状腺腫瘍
「甲状腺を押すと痛い」場合、甲状腺に腫瘍ができている可能性も考えられます。
甲状腺の腫瘍には、
- 腺腫様甲状腺腫(せんしゅようこうじょうせんしゅ)
- 濾胞腺腫(ろほうせいしゅよう)
- 甲状腺嚢胞(こうじょうせんのうほう)
などがあります。
▼腺腫様甲状腺腫とは
甲状腺にある細胞が増殖して「しこり」を形成する状態。
気管や食道が圧迫されることがある。
多くの場合良性だが、一部分がガン化しているケースもある。
▼濾胞腺腫とは
甲状腺の中にできる痛みのない良性腫瘍。
「ゆっくりと肥大化していく」という特徴がある。
▼甲状腺嚢胞とは
甲状腺の中に液体の溜まった袋状のものができてしまう状態。
多くの場合痛みを伴わないが、短期間で大きくなったり、痛みを伴ったりすることもある。
ガンによって嚢胞が発生するケースもある。
どんな人がなりやすい?
甲状腺腫瘍は、20~50歳代の女性に多くみられます。
甲状腺腫瘍の症状チェック
- 甲状腺に「しこり」のようなものができる
- 甲状腺全体が腫れたり、一部分のみが腫れたりする
- ものを飲み込みにくい(のどの違和感)
「甲状腺腫瘍」かもと思ったら…
できるだけ早めに病院を受診して、医師に相談することをおすすめします。
「内分泌内科」「耳鼻いんこう科」で診てもらえることが多いです。
病院を受診せず放置していると、万が一ガン化していても、見逃してしまう可能性があります。
その場合、悪化して命に関わる状態に陥る恐れもあります。
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甲状腺を押すと痛いときは、念のため病院で相談しよう
「甲状腺を押すと痛い」という症状があるのであれば、原因に見当がつかなくても、まずは病院を受診しましょう。
「内分泌内科」「耳鼻いんこう科」の受診をおすすめします。
かかりつけの内科がある場合は、そちらで一度相談してもよいでしょう。
病院を受診して、悩んでいる症状の原因とその対処法がはっきり分かれば、痛みの緩和や症状の悪化予防につながると考えられます。
医師に伝えるポイント
- 症状が出現した時期
- 出現している症状
- 最も困っている症状
- 家族(親族)に甲状腺疾患の人がいるかどうか
- 治療中の病気の有無
- 服用中の薬の有無
- 飲酒習慣・喫煙の有無
- 睡眠の状態(睡眠時間や日中に眠気があるか等)
- 妊娠の有無
受診の際は上記の点を医師に伝えると、診察がスムーズに進むと考えられます。
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2020-05-11
甲状腺が腫れている…
病院は何科に行けばいい?
何科で検査を受ければいいのか、医師が解説します。
受診目安や症状を放置する危険性についても聞きました。
甲状腺の腫れ|病院は何科?
甲状腺の腫れに気づいたら「内分泌内科」または「耳鼻いんこう科」を受診しましょう。
ご自身にかかりつけの内科がある場合は、まずはそこで相談し、専門医を紹介してもらうことも1つの方法です。
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※上記の診療科目を受診した場合でも、診察が可能かどうかは、各医療機関の設備やご自身の症状によって異なります。
なぜ甲状腺が腫れるの?
甲状腺が腫れている場合、甲状腺機能が過剰に働いている(亢進)、または低下している可能性があります
甲状腺の腫れってどんな感じ?
甲状腺が腫れているときは、やや喉のあたりが膨れていると感じるイメージです。
甲状腺が腫れているのか、風邪による炎症なのか、自分自身で判断するのは難しいと思います。
少しでも気になる場合は、自己判断せずに病院を受診し、医師による触診や超音波検査、血液検査を行いましょう。
腫れの他にも、こんな症状がでることも…
甲状腺が腫れる以外に、次の症状が現れることが多いです。
甲状腺機能が過剰な場合の症状
汗をかく
イライラする
集中力が低下する
食欲はあるが体重が増えない
動悸(息切れ、脈の乱れ)
手足が震える、筋力低下
眼球が出てくる
月経不順・無月経
コレステロール値が低い
甲状腺機能が低下した場合の症状
冷え性
体がだるい、疲れやすい
体重増加、むくみ
便秘気味
皮膚の乾燥
抜け毛が増えて、髪が薄くなる
食欲不振
月経不順、無月経
コレステロール値が高い
症状を放置するリスク
甲状腺の腫れを放置すると、全身に不調を起こします。
また、甲状腺機能が亢進する「バセドウ病」や、機能が低下する「橋本病」、甲状腺の細胞ががん化した「甲状腺がん」などの病気の治療が遅れる可能性があります。
日常生活をおくるためのエネルギーを作るために、甲状腺は必要不可欠です。甲状腺は、体の発育発達を促進、新陳代謝を活発にする働きを持つ甲状腺ホルモンを作っています。そのため、甲状腺が腫れたり、ホルモンの働きに異常が出たりすると、体全体の不調に繋がる恐れがあります。
こんなときは、病院を受診しよう
甲状腺の腫れや、ここまでに解説した症状に心当たりがある場合は、まずかかりつけの医師に相談したり、耳鼻いんこう科、内分泌内科を受診しましょう。
甲状腺の病気は目立った症状がない場合もあります。
健康診断等で甲状腺の腫れや異常を指摘されたら、早めに受診しましょう。
迷う前に、早期の受診を!
甲状腺周囲に何らかの異常を感じた場合は、いろいろと迷う前に、病院を受診しましょう。
バセドウ病や橋本病、甲状腺がん等の病気は、どれも早期に治療を行うことで、普通に日常生活を送ることができますので、早めの受診をお勧めします。
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病院ではどんな検査が行われる?
一般的に、次のような流れで診察・検査を行います。
問診
症状の確認や遺伝的要因等を確認します。
触診
甲状腺の腫れやしこりがあるか確認します。
血液検査
甲状腺ホルモンの異常を確認します。甲状腺ホルモンの濃度を検査し、甲状腺ホルモンが正常に出ているか確認します。
抗体検査
病気によっては抗体検査を行います。免疫によって自分の体を攻撃する抗体ができ、甲状腺の病気である、バセドウ病や橋本病などを発症します。抗体の種類を調べることで、どの病気なのかを調べることができます。
超音波検査
甲状腺の腫れた部分を確認し、甲状腺全体が腫れているのか、甲状腺の中の一部が腫れているのか等を確認します。
その他、甲状腺穿刺吸引細胞診などがあります。この検査は注射針で甲状腺を刺し、細胞を吸引します。がん細胞などが無いか、炎症などの状態がどうなっているかなど細胞の状態を判断する検査です。
病気を診断するために様々な検査がありますので、主治医の指示の元、検査を受けてください。
検査費用はどれくらいかかる?
病気や状態によっても、検査内容、費用が違います。
検査する項目によって、かなり差があるので、「一般的いくら」ということは難しいです。
例として、血液検査、尿検査、甲状腺超音波検査では、3割負担で5000円〜1万円ほどです。
まずは初診でかかられて、その際にどのくらいの検査が必要なのか、いくらぐらい必要なのかを確認してください。
一度に全ての検査をしなければならないわけでもありませんので、費用や検査の種類なども含めて主治医とよく相談してください。
検査前(当日)に気をつけること
超音波検査の場合は、ネクタイ、ネックレスなどの首に巻くものは外しておく方がよいでしょう。
また、もともと内服している薬がある場合は、主治医に伝えるようにしまてください。
▼参考
一般社団法人 日本内分泌学会
http://www.j-endo.jp
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2021-05-21
「太ってきたのは、甲状腺の病気のせい?」
“体重増加”と“甲状腺の病気”の関係を、お医者さんに聞きました。
甲状腺の機能が低下していると、不妊につながるケースもあります。
倦怠感や眠気の症状に心当たりがある場合は、要注意です。
甲状腺の病気になると太るって本当?
甲状腺ホルモンの量が不足していると、太りやすくなります。
甲状腺ホルモンは代謝に関係しているため、分泌量が減ってしまうと代謝量が減ります。
これにより、通常の食事量でも太ったり、むくんだりすることあります。
甲状腺の異常による体重増加がある場合、
橋本病(慢性甲状腺炎)
ヨウ素欠乏
先天性甲状腺機能低下症
といった原因が考えられます。
甲状腺の病気かどうか、どう判断する?
甲状腺の病気の疑い
甲状腺の病気の疑い
体重の増え方
摂取カロリーの増加や運動不足の自覚があり、少しずつ体重が増加する。
食生活や運動習慣の変化がないのに、体重増加が見られる。
むくみ
水分の過剰摂取・塩分過多の食事の後にむくみが見られる
特に変わったものを食べたり飲んだりしていないのに、むくみやすい
排便
・食事に偏りがあると便秘を起こす
・食事量が極端に減ると便秘を起こす
食事量、食べているものに変化はないのに便秘気味になる
他にも、こんな症状があったら要注意!
眠気が強い
冷えるようになった(寒がる)
疲れやすい、無気力
皮膚の乾燥
月経の異常(量が増える、長引く等)
毛が抜ける
甲状腺の病気を引き起こす原因
はっきりとは解明されていませんが、
ストレス
妊娠、出産
ヨウ素を含む海草類の食べ過ぎ
などが関係していると言われています。
甲状腺の病気は女性に多く、特に30~40代ごろに発症しやすい傾向があります。
「私、甲状腺の病気かも…」病院は何科?
甲状腺の病気を疑う場合は、内分泌内科を受診しましょう。
治療を受けることで、病気の悪化を防ぎやすくなります。
甲状腺の病気は不妊の原因になるケースもあるため、特に妊娠を望む女性は早期受診を心がけましょう。
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お医者さんへの「症状の伝え方」
いつ頃から太ってきたのか
ほかに体の不調はないか
といった点を、できるだけ詳しく伝えましょう。
どんな検査を受けるの?
血液検査を行い、甲状腺ホルモンの値などを調べます。
どんな治療をするの?
甲状腺ホルモンが足りていない場合には、薬の服用によってホルモンを補います。
ホルモンが補われると、体の不調が次第に改善していきます。
放置はNG!病気が悪化すると…
放置すると症状が重くなり、今までは難なくできた仕事や家事作業がつらくなっていきます。
また、甲状腺はホルモンに関係しているため、不妊につながるケースもあります。
悪化を防ぐには、医療機関で早めに治療を開始することが大切です。
特に妊娠の希望がある場合は、すぐに医療機関へ行きましょう。
甲状腺疾患を疑う場合は、内分泌内科の受診をおすすめします。
内分泌内科を探す
※記事中の「病院」は、クリニック、診療所などの総称として使用しています。
▼参考
一般社団法人 日本内分泌学会 甲状腺機能低下症
※記事中の「病院」は、クリニック、診療所などの総称として使用しています。