強迫性障害で記憶に自信がない…。
何度も確認作業を繰り返してしまうのにもう疲れた…。
強迫性障害の人が記憶力に自信を持てない理由について、お医者さんに聞いてみました。
強迫観念を気にしないための心構えや、病院での治療法も解説します。
監修者
平成かぐらクリニック
院長、メンタルアシストプログラム総責任者
伊藤 直
経歴
一般社団法人 健康職場推進機構理事長
医療法人社団 平成医会 理事
専門領域:精神科(心療内科)、精神神経科、心療内科
著書:精神科医が教える 3秒で部下に好かれる方法
強迫性障害で「記憶に自信が持てなくなる」のはなぜ?
強迫性障害を発症すると、「記銘力(新しいことを覚える力)」が低下します。
その結果、新しい情報を記憶することが苦手になります。
強迫性障害は記憶力全体への影響はありません。
記憶のメカニズムである記銘・保持・追想・再認の4つのうち、記銘力が低下している状態です。
そのため、昔の記憶や過去に学んだ内容を思い出すことは問題ないケースが多いです。
強迫性障害を発症する原因
強迫性障害の発症原因は、まだ明らかになっていません。
- 脳内伝達物質の「セロトニン」を取り込むタンパク質の不足
- 長期記憶を保管する「大脳皮質」が十分に活動していない
等により、脳の情報伝達がうまく機能していないことが影響していると考えられます。
記憶に自信をつけるための「5つの対処法」
- 確認作業は一回まで
- 確認作業を丁寧に行う
- 過去を思い出さない
- 「自分は大丈夫!」と信じる
- 身近な人へサポートを依頼する
記憶に自信をつけるために、上記の5つを実践しましょう。
対処法① 確認作業は一回まで
確認作業を一回行ったら、それ以降は一切確認しないようにしてください。
強迫性障害の人は、繰り返し行う行動に対して「もし~になったら」と最悪の事態を想定してしまいます。
その結果、確認作業を繰り返すうちに、正しい記憶が忘れられるケースもあります。
一度の確認作業で問題なければ、その経験が大きな自信となって積み重なり、強迫観念の改善につながります。
対処法② 確認作業を丁寧に行う
確認作業は「声に出す」「ゆっくり行う」などして、記憶に定着するように工夫しましょう。
目視だけで慌ただしく確認作業を行っても、記憶に定着せずに強迫観念に負けてしまいます。
確認作業の工夫の例
- 鍵をかけるときは、「鍵を入れる→回す→鍵を抜く」という工程を口に出しながら行う
- 火元のチェックは、「声出し」と「指差し」をセットで行う
- 火の消し忘れや鍵のかけ忘れがないように、スマホで写真や動画を撮る
対処法③ 過去を思い出さない
強迫観念を引き起こすきっかけになるので、なるべく過去のことを思い出さないようにしましょう。
過去の記憶とリンクしそうな場面では、「過去と今は違う」と言い聞かせることが大切です。
また、強迫性障害の人は、無意識のうちに過去の記憶を悪い方向に書き換えてしまうケースがあります。
そのため、メモを残したり、関係者に聞いたりして、過去の正しい記憶を整理するのもよいでしょう。
対処法④ 「自分は大丈夫!」と信じる
何度も強迫行為を繰り返してしまう場合は、「自分は大丈夫」と言い聞かせましょう。
確認作業を繰り返してしまう場合でも、実際に鍵の閉め忘れや火の消し忘れなどの失敗を犯しているケースはまれです。
対処法⑤ 身近な人へサポートを依頼する
身近な人に助けてもらいましょう。
同居している人がいる場合は、自分が出かける間に家にいてもらうことで、不安が解消されやすいです。
また、記憶違いが起こらないように、確認作業を一緒に行ってもらいましょう。
他の人と共通の記憶を持つことで、安心感や自信を持つことにつながります。
強迫性障害を気にしないための心構え
強迫性障害で記憶に自信がないことを気にしないためには、「こんなに確認したんだから、後はどうにでもなれ」と思うことが大切です。
強迫性障害の人が抱く強迫観念は、漠然とした不安によるものであり、ミスを犯しているケースはほとんどありません。
「時間が過ぎれば何も問題はなかった」という経験を繰り返すことで、自分の記憶に自信を持てるようになります。
強迫性障害は自然に治る?根本的に治す方法は?
強迫性障害で日常生活に支障をきたしている段階では、自然に治すことは難しいです。
根本的に治すには、医療機関で相談して治療を受ける必要があります。
まずは、自分が強迫性障害であるのかどうかを調べるために、病院で診察や検査を受けましょう。
病院は何科?
「精神科」または「心療内科」で相談することをおすすめします。
※両方の診療を行っている医院・クリニックもあります。
強迫性障害の治療法
病院では薬を長期間飲み続ける「薬物療法」と、医師や臨床心理士による「認知行動療法」が行われます。
認知行動療法とは、自分の現状を見つめながら整理し、どうやって問題と向き合うのかを考える治療法です。
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強迫性障害がつらい…。
「治療費はいくらかかる?保険適用?」
詳しい治療方法や、克服するためにできることをお医者さんに聞きました。
考え方次第で、早く治せるかもしれません。
「家族にできること」を本人が家族に強要して病状が悪化することもあるので、家族など周りの人も一緒に理解を深めましょう。
強迫性障害の治療方法
強迫性障害の治療は主に
投薬治療
認知行動療法
の二軸で行われます。
どちらか単独での治療よりも、2つを組み合わせた方がより効果が高まります。
一般的に「投薬治療」で不安感などの症状を落ち着かせてから、「認知行動療法」を併用することが多いです。
その① 投薬治療
強迫性障害の原因の1つと言われるセロトニン(※)の異常を調整する「抗うつ薬」を使用します。必要に応じて、不安をやわらげる「抗不安薬」を併用することがあります。
具体的な抗うつ薬の種類はデプロメール・ルボックス・パキシルなどです。
効果が出るまでに2週間から1ヶ月程度かかるため、自己判断で中断せずに医師の指示に従って服用してください。
※セロトニンとは
脳内で働く脳内神経物質の一種です。心の安定に関わっている物質なので、セロトニンが不足すると不安感や緊張感が強くなると考えられています。
「投薬治療」にかかる費用は?
多くの場合、保険が適用されます。
2週間、抗うつ薬が処方されたとして、初診代と薬代で3,000円前後、再診で2,000円円前後かかるとお考えください。(3割負担の場合)
その② 認知行動療法
ストレスや苦手なものに対して、うまく対応する方法を学ぶ治療法です。精神科医や臨床心理士などが患者さんの考え方のクセ・受け取り方を理解し、良い方向へ修正します。
強迫性障害は、薬による治療も行われることが多いですが、認知行動療法を組み合わせると、症状がさらに良くなるといわれています。
つらい症状をやわらげるだけでなく、再発の防止にもなります。
「認知行動療法」治療にかかる費用は?
医師が「治療が必要だ」と判断した場合、基本的に保険適用です。
保険診療の場合、3割負担では初診の診察代は2,000~3,000円前後で、再診は1,000~2,000円前後です。一般的には5~20回ほど、2~6ヶ月の期間で行うことが多いです。
認知行動療法に関しては、保険適用外であることも多く、1回3000~5000円前後で、30分~1時間ほどかかります。
※医療機関によって費用が異なるため、あらかじめ医療機関に問い合わせて確認しておくことをおすすめします。
「薬なし」で治すのは難しい?
お薬を使用せずに治すのは難しいです。
強迫性障害の患者さんは、うつ病を併っていることも多く、早く症状を安定させるためには、薬の使用をおすすめします。
ご自身が現在、どのような治療を受ける必要がある状態なのかを、専門医と相談してみると良いでしょう。
強迫性障害を治すコツはあるの?
治療から逃げ出さずに、気長に着実に取り組むことも大事です。
薬は症状が良くなるまでに時間がかかるものもあります。
大切なのは、自己中断せずに医師から処方された通りに薬を飲むことです。
日常生活で気をつけることは?
夜の睡眠時間を最低でも7時間は確保し、規則正しい生活を意識してください。
生活リズムが崩れると悪化しやすくなります。
可能な範囲で、仕事や学校と関わりを持ちましょう。
病気と向き合うことは大切ですが、病気しか向き合うことがないと、症状の悪化に繋がりかねません。
治療は「自分のペース」が大事です
早く治そうと焦ってしまうと、ストレスなどが増えて逆効果です。
強迫性障害は、症状が良くなったり、悪化したりを繰り返し、長期にわたって向き合わなければならないケースが多いのでご自身のペースで治療していきましょう。
ご自身にあった治療を受ければ、症状は良くなる可能性が高くなるということを、忘れないでください。
家族や周囲の人が意識すべきポイント
強迫性障害は家族も巻き込まれやすい病気ですが、患者さんに合わせすぎると共倒れしてしまいます。患者さんの主治医や臨床心理士に相談しながら進めていきましょう。
例えば、患者さんが家族に対して繰り返し同じ確認をするときには、確認行動は1回だけにする、などルールを決めて対応しましょう。
患者さん自身も、つらく、苦しんでいることを理解し、病気のことを責めないように心がけることが大切です。
患者さんとの接し方
患者さんの話を最後まで聞く
巻き込まれすぎない
言い合いをしない
感謝の言葉を口にする
褒める
焦らせない
否定しない
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※記事中の「病院」は、クリニック、診療所などの総称として使用しています。
▼参考
厚生労働省:強迫性障害
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター:認知行動療法とは
公益社団法人日本精神神経学会:松永寿人先生に「強迫性障害」を訊く
MSDマニュアル家庭版:強迫症(OCD)
一般社団法人日本うつ病センター(JDC):強迫性障害のくすり
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母親が原因で、強迫性障害になることってあるの?
強迫性障害を発症する原因について、お医者さんに聞いてみました。
主な症状も紹介するので、自分や周囲の人に強迫性障害が疑われる場合は、参考にしてみましょう。
強迫性障害は「母親が原因」の場合もある?
強迫性障害は、母親と接することで生じるストレスが引き金となるケースや、遺伝(※)によって発症するケースもあると考えられます。
しかしながら、強迫性障害の原因ははっきりとはわかっていません。そのため、一概に母親だけが原因となるとはいえません。
(※)母親が強迫性障害の場合、生涯有病率が10〜20%上昇するという研究結果があります。
強迫性障害ってどんな病気?
強迫性障害とは、払いのけられない思考やイメージ(強迫観念)が何度も浮かび、同じ行動を繰り返すなどして、日常生活に支障をきたす病気のことです。
うつ病を併発するケースがあり、その場合、強迫性障害がより重くなる場合があります。
強迫性障害の主な症状
過剰に手洗い・入浴・洗濯を繰り返す
手すりやドアノブを触ることができない
戸締まりやガス栓・電気器具のスイッチを何度も確認する
決まった方法・手順で家事や仕事をしないと気が済まない
物の配置に過剰なまでにこだわる
など
強迫性障害になりやすい人の特徴
強迫性障害は、20歳前後で発症することが多いです。
また、
几帳面な性格の人
こだわりが強い人
はなりやすいとされています。
発症頻度で男女差はありませんが、女性は20歳より後に、男性は20歳より前に発症する傾向があります。
強迫性障害の治し方
強迫性障害を治すためには、医療機関で治療を受ける必要があります。
強迫性障害は、薬を使用せずに治すことが難しいからです。
強迫性障害の治療は「精神科」で受けられます。
放置していると重症化してしまい、うつ病を併発する恐れもあるため、早めに受診してください。
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一般的な治療の流れ
病院ではまず「投薬治療」を行い、症状が落ち着いたら「認知行動療法」を行うケースが一般的です。
投薬治療では、セロトニン(※)の異常を調整する「抗うつ薬」を使用します。
必要に応じて、「抗不安薬」を併用することもあります。
認知行動療法は、ストレスや苦手なものに対して、上手に対応する方法を学ぶ治療法です。精神科医や臨床心理士が、患者さんの考え方のクセや受け取り方を理解して、よりよい方向へ修正していきます。
※セロトニンとは、精神の安定に関わる脳内神経物質の一つです。セロトニンが不足すると緊張感や不安感が強くなります。
強迫性障害が治るまでの期間は?
投薬治療から2週間~3ヶ月程度で、症状が改善に向かうことが多いです。
ただし、治療をやめると再発しやすいため、症状が安定したあとも約半年〜1年半は治療を続けることが望ましいと考えられています。
「早く治すコツ」はある?
残念ながら、強迫性障害を早く治すコツはありません。
早く治そうとして焦っても、かえってストレスがたまり、逆効果になってしまいます。
強迫性障害は、長期にわたって向き合わなければいけない病気です。
焦らず気長に治療に取り組みましょう。
身近な人が強迫性障害になったら
まずは患者さんの悩みに関心をもち、理解を示すようにしましょう。
その上で、以下のことを心がけて接してください。
患者さんの話を最後まで聞く
言い合いを避ける
患者さんのことを否定しない
感謝の言葉を伝える
褒める
焦らせない
自分自身が巻き込まれすぎないように気をつける
強迫性障害は、家族や友人など周りの人も巻き込まれやすい病気です。
患者さんの主治医や臨床心理士に相談しながら、サポートしていきましょう。
精神科を探す
※記事中の「病院」は、クリニック、診療所などの総称として使用しています。
▼参考
厚生労働省 知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス 強迫性障害
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