高齢者が「急に歩けなくなる」のはなぜ?
もしかして、何かの病気?
高齢者が急に歩けなくなる病気について、お医者さんに聞きました。
歩けないことで寝たきりなってしまうと、余命が短くなる恐れもあります。
心当たりのある症状をチェックして、早めに病院を受診しましょう。
監修者
フェリシティークリニック名古屋
医学博士
河合 隆志先生
経歴
’97慶應義塾大学理工学部卒業
’99同大学院修士課程修了
’06東京医科大学医学部卒業
’06三楽病院臨床研修医
’08三楽病院整形外科他勤務
’12東京医科歯科大学大学院博士課程修了
’13愛知医科大学学際的痛みセンター勤務
’15米国ペインマネジメント&アンチエイジングセンター他研修
’16フェリシティークリニック名古屋 開設
高齢者が「急に歩けなくなる」原因
高齢者が急に歩けなくなる場合、
- 廃用症候群(筋力の低下)
- 腰部脊柱管狭窄症(下半身の痛み)
- 特発性正常圧水頭症(脳の病気)
などの原因が考えられます。
これらは、加齢による「体全体の機能低下」「骨・靭帯の変形」「脳の異常」により引き起こされます。
※急に歩けなくなったときに、無理に歩いたり、運動をしたりすると、転倒するリスクがあるのでやめましょう。
原因
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症状の特徴
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廃用症候群
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腰部脊柱管狭窄症
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- 足の痛み・しびれ
- 歩くと痛みが出るので長く歩けない
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特発性正常圧水頭症(iNPH)
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原因① 廃用症候群(筋力の低下)
廃用症候群(はいようしょうこうぐん)は、体の運動に必要な筋力が減少してしまっている状態です。
主に、寝たきりで過ごした期間の後に起こります。
高齢者が、ケガ・病気などで一時的に寝たきり状態の生活をしていると、筋力が一気に落ちやすくなります。
寝たきりの生活は、「骨・関節の萎縮」も進みやすいため、歩行する力が落ちてしまうことが多いです。
「廃用症候群」かも…今できる対処は?
家族や周囲の人がサポートして、一つずつ弱っている体の部位を動かしてあげましょう。
再び歩けるようにするには、ゆっくりと筋力をつけていくことが大切です。
必要でないのに安静な状態を継続してしまうと、症状がさらに進みます。
急に改善する方法はないので、少しずつ、時間をかけて取り組みましょう。
病院に行く目安
- 歩くことが難しく感じて、やる気が起きない
- 一歩も歩けない
といった場合は、早めに医療機関に相談しましょう。
内臓疾患が無い場合は、「整形外科」で相談してみましょう。
運動機能の診療、およびリハビリテーションが行えます。
内臓疾患があり治療を受けている方は、まずはかかりつけ医に相談してください。
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原因② 腰部脊柱管狭窄症(下半身の痛み)
腰には、脊柱管(せきちゅうかん)という神経の束が通る管があります。
その管が狭くなると、神経が圧迫されて、歩くと痛みが出るようになります。
腰椎脊柱管狭窄症の「特徴」
- 足のしびれ・痛みを感じる
- 歩いていないときは痛みがない
腰部脊柱管狭窄症を発症すると、痛みが出るため、長い距離を続けて歩くことができなくなります。
この病気は、加齢によって起きやすいので、誰もが発症する可能性があります。
「腰部脊柱管狭窄症」かも…今できる対処は?
痛みが出にくい、「前かがみの姿勢」で歩いてみてください。
杖やカートを使うのもよいでしょう。
また、歩かない時は、筋力をつけるために良い姿勢を保ちましょう。
病院に行く目安
「歩くと痛む」という症状がある場合は、早めに整形外科で受診してください。
放置すると、歩く機会が減ることで筋力が低下し、さらに歩きにくくなる恐れがあります。
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原因③ 特発性正常圧水頭症(脳の病気)
特発性正常圧水頭症(iNPH)は、本来一定に吸収されていくはずの「脳の髄液」が溜まってしまう病気です。
特発性正常圧水頭症の「特徴」
- 歩けない
- 物忘れが多くなる
- トイレに間に合わなくなる
髄液が脳を圧迫することで、上記のような症状が現れます。
特発性正常圧水頭症は、加齢に伴って発症しますが、原因はわかっていません。
症状が、この病気ではない高齢者にもよくみられるものであることから、見逃されてしまうことも多いです。
病院に行く目安
歩行困難に加え、認知症の症状・尿失禁が急に増えてきたら、早めに「脳神経内科」を受診してください。
特発性正常圧水頭症は、病院で治療しないと改善が見込めません。
悪化すると寝たきりになるリスクがあるため、放置は禁物です。
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2022-07-08
足が前に出ない…。
もしかして、何かの病気?
高齢者で「足が前に出ない」ときに考えられる原因を、お医者さんに聞きました。
高齢者の場合、運動機能の異常が「寝たきり」につながるリスクもあるため、放置は禁物です。
原因となる病気・なりやすい人の特徴をチェックしてみましょう。
高齢者の「足が前に出ない…」原因は?
高齢者で「足が前に出ない」場合、
廃用症候群(寝たきりだった人に多い)
サルコペニア(運動不足・栄養不足)
パーキンソン病(脳の病気)
などが原因として考えられます。
これらは、体全体の機能や筋肉、脳に問題が生じている状態です。
いずれも高齢者に多くみられます。
原因
症状の特徴
廃用症候群
筋力低下
関節が動かしづらい
意欲の低下
認知機能の低下
サルコペニア
筋力・握力の低下
歩くのが遅くなった
転倒しやすくなった
パーキンソン病
手足の震え
歩くときに足が出にくい
転倒しやすい
素早い行動ができない
話し方に抑揚がなくなる
膝や肩、指などの痛み
顔の筋肉がこわばる
方向転換ができない
原因① 廃用症候群(寝たきりの生活がキッカケとなる)
廃用症候群は、「運動に必要な筋力の減少」「骨・関節の萎縮」といった原因で、歩きにくくなっている状態です。
▼どういう人がなりやすいか
寝たきり・安静の状態で生活を続けた人
内臓の機能が低下している人
廃用症候群の方は、筋肉だけでなく、胃腸や肺などの臓器の機能も低下します。
歩きづらいために体を動かす意欲が失われ、さらに症状が悪化することもあります。
廃用症候群を改善させるには、毎日体を動かすことが大切です。
※関節痛がある場合など、お薬を使った治療が必要になるケースもあります。
原因② サルコペニア(栄養不足・運動不足)
サルコペニアとは、筋肉の量が減少している状態です。
「運動不足」「病気(糖尿病・ガン 等)」「エネルギー・タンパク質の不足」などがキッカケとなって起こることが多いです。
▼どういう人がなりやすいか
寝たきりの期間が長かった人
運動不足の人
重い病気を患った人
(ガン・虚血性心不全・糖尿病など)
栄養吸収不良を起こしている人
食欲不振を起こしている人
エネルギー・タンパク質の摂取不足の人
サルコペニアは、主に筋力の低下に関する症状を指します(※)。
症状が進行すると、最悪の場合、寝たきりになってしまう可能性もあります。
改善のためには、食生活の改善・継続した運動が必要になります。
※原因①で紹介した「廃用症候群」は、「骨」や「内臓」も含めた幅広い機能低下を指します。
原因③ パーキンソン病(脳の病気)
パーキンソン病は、脳に起きる障害によって、体を正常に動かせなくなる病気です。
運動機能の異常は、「ドーパミン」という神経伝達物質の不足し、体に指令を出しにくくなって起こると考えられています。
▼どういう人がなりやすいか
明確ではありませんが、現段階では遺伝的要因が関係していると考えられています。
パーキンソン病になると、足が前に出ないことに加えて、
何もしていないのに手足が震える(眠っているときは震えない)
などの症状があらわれるケースがあります。
パーキンソン病は、進行すると徐々に運動機能が低下していきます。
根本的な治療法はありませんが、お薬を使った治療で症状を緩和させることは可能です。
うまく歩けない…病院に行く目安は?
「足が前に出ない」という症状があるときは、一度医療機関を受診しましょう。
悪化を防ぐためにも、原因を特定して早めに治療を始めることが大切です。
放っておくと、病状が進んで「寝たきり」になってしまう恐れもあります。
歩くことは、心と体を健康に保つうえで欠かせないものです。
気になる症状があるときは、医師に診てもらうようにしましょう。
病院は何科?
歩行に関する悩みがあるときは、まず整形外科で相談しましょう。
整形外科では、運動機能を調べたり、筋肉量を測定したりして、原因の特定を行います。
※パーキンソン病の疑いがある場合は、脳神経内科・脳神経外科を紹介されることもあります。
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▼参考
塚田整形外科 筋肉が減っていくのは年のせいだけではありません ―筋肉が減っていく病気「サルコペニア」ってどんなもの?―
医療法人鉄蕉会 医療ポータルサイト 廃用症候群
東京都福祉保健局 廃用症候群
歩けない・立てない「余命との関係は?」
歩けないことで「寝たきり」状態になると、体の機能が全体的に弱っていってしまいます。
その結果、間接的に余命が短くなってしまうリスクがあります。
症状がつらい場合は、体を動かす気力がなくなり、引きこもりがちになります。
少しずつでよいので、周囲のサポートを受けながら運動して、筋力を戻すのがいいでしょう。
また、早めに医療機関を受診して適切な診断を受け、病気の治療やリハビリを始めることも大切です。
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2022-10-27
70代に入ってから、足がむくむようになった…。
足のむくみは病気サインって本当?
高齢者の足のむくみで考えられる病気について、お医者さんに聞いてみました。
腎不全などの病気による足のむくみだと、早急に医療機関で受診が必要なので、心当たりがないかチェックしましょう。
高齢者の「足のむくみ」は病気サイン?
1日で改善されるような一時的なむくみであれば、病気である可能性は低いです。
「筋肉の疲労」や「塩分のとりすぎ」が原因として考えられます。
ただし、
むくみが持続する
息切れなどの症状が出る
という場合は、「病気によるむくみ」が疑われるので、早めに病院で検査を受けましょう。
足にむくみが生じる「高齢者に多い病気」
腎不全
心不全
肝硬変
静脈性浮腫
リンパ性浮腫
高齢者の足のむくみの原因には、上記の病気が考えられます。
それぞれ詳しく解説していきます。
病気① 腎不全
腎臓の機能が落ちてしまい、老廃物をうまく排泄することができない状態です。
体の中に余分な水分がたまってしまうため、むくみの原因となります。
腎不全になりやすい人の特徴
不規則な生活習慣を送っている人
乱れた食生活(暴飲暴食等)
肥満
喫煙習慣がある
糖尿病
高血圧症
脂質異常症
高尿酸血症
家族に腎臓病の方がいる
受診する目安は?何科に行くべき?
腎不全を疑う場合は、早急に内科で受診しましょう。
放置すると腎臓だけではなく、他の器官に障害が出てしまう場合があります。
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病気② 心不全
心臓に負担がかかり、全身に血液をめぐらすポンプ機能がうまく働かない状態です。
全身に血液をめぐらすことが難しくなると、血流が滞り、足のむくみにつながります。
心不全になりやすい人の特徴
塩分のとりすぎ
高血圧
糖尿病
脂質異常症
肥満
喫煙習慣がある
受診する目安は?何科に行くべき?
心不全は命に関わる病気なので、早急に内科で受診しましょう。
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病気③ 肝硬変
肝臓の機能が低下し、血流の悪化や血液の成分の割合が変化している状態です。
血管内に水分をためておくことができず、お腹や足に水がたまるため、むくみの原因となります。
肝硬変になりやすい人の特徴
アルコールを多く飲む人
肥満
生活習慣が乱れている人
偏食
運動不足
受診する目安は?何科に行くべき?
転倒しやすくなった
お腹がはって苦しい
息がしづらい
食事を食べられない
などの症状が見られたら、消化器内科を受診しましょう。
なお、肝硬変から肝臓ガンを発症するおそれがあるので、早急に医療機関を受診してください。
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病気④ 静脈性浮腫
「下肢静脈瘤」や「深部静脈血栓症」などで、足の血液の流れが滞っている状態です。
血流が悪くなり、足のむくみにつながります。
▼下肢静脈瘤
静脈にある、血液の逆流を防止する弁が不調を起こし、心臓方向に帰っていく血液が足の方に逆流してしまう病気です。
こちらになると、ふくらはぎなどの血管が、コブのように膨らむのが特徴です。
▼深部静脈血栓症
下肢の静脈に血の塊ができて詰まってしまう病気です。血流が滞るため、足のむくみにつながります。
静脈性浮腫になりやすい人の特徴
立ち仕事が多い人
妊娠・出産
遺伝
肥満
高齢者
受診する目安は?何科に行くべき?
静脈性浮腫を疑う症状がある場合は、早めに循環器内科で受診しましょう。
静脈血栓が血流にのって肺に運ばれ、「肺動脈血栓塞栓症」という病気を引き起こすおそれがあります。
また、症状が悪化して、「色素沈着」「ただれ」「足のだるさ」などの症状があらわれる場合があります。
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病気⑤ リンパ性浮腫
何らかの原因でリンパの流れが滞り、皮膚の下にリンパ液がたまることで、足のむくみにつながります。
リンパ性浮腫になりやすい人の特徴
乳ガンや子宮ガン、前立腺ガンなどの病気の治療で、「リンパ節の除去」や「放射線治療」をおこなった人は、リンパの流れが悪くなることがあるので、発症しやすいと考えられます。
受診する目安は?何科に行くべき?
放置すると、「むくみがひどくなる」「発熱」倦怠感が強くなる」など、症状の悪化が懸念されるため、早めに外科で受診してください。
外科を探す
※記事中の「病院」は、クリニック、診療所などの総称として使用しています。
▼参考
国立循環器病研究センター
大塚製薬
がん情報サービス