「乳房が痛い…」
「乳房にしこりができた…」
更年期の悩みの一つである「乳腺症」について、お医者さんに詳しく聞きました。
乳がんとの見分け方、セルフケア方法なども併せて解説します。
監修者
経歴
医療法人社団 石野医院
日本医科大学
日本医科大学付属病院
日本医科大付属第二病院
国立横須賀病院
東部地域病院
石野医院
更年期に起こる「乳腺症」って?
乳腺症は、乳腺に起こる生理的な症状を指します。
乳腺に正常とは違った変化が見られるだけで、病気ではありません。
主な原因はホルモンバランスの変化で、生理が関係して発症するケースが多いです。
特に治療を必要とするケースは、ほぼないと考えていいでしょう。
乳腺症の主な症状は「胸の痛み・しこり・分泌物」
- 乳房の痛み(疼痛)
- 乳房の硬結(しこり)(※)
- 乳頭から分泌物が出る
などは乳腺症の主な症状です。
※硬結(こうけつ):柔らかい組織が、炎症・うっ血・充血などで硬くなること
乳腺症は多くの場合、乳がんとは関係がありません。
ここでご説明したような症状は、ほとんどのケースで自然に軽快していくため、過度な心配は必要ないでしょう。
ただし、しこりがある場合は、乳がんが含まれる可能性を考える必要があるため、詳しく検査を行うのが、望ましいです。
チクチクとした痛みを感じる…
乳腺症でチクチクとした痛みを感じることがありますが、これは胸の中に水がたまる「乳腺のう胞」が大きくなると感じます。
母乳みたいなものが出た…
乳腺症になると、乳頭から分泌物(水っぽい、母乳のようなもの)が出ることもあります。
これはホルモンバランスの影響で生じます。
「乳腺症のしこり」と「乳がんのしこり」の見分け方は?
▼乳腺症のしこりの特徴
- 両方か片方にできる
- 大きさはバラバラで揃っていない
- 生理が終わる頃にしこりも小さくなる
- しこりが痛む
- しこりを押すと痛い
上記に当てはまる場合は、乳腺症の可能性が高いです。
ただし、念のため医療機関で検査を受けたほうが良いでしょう。
要注意!こんな症状は乳がんかも
▼乳がんのしこりの特徴
- 硬い
- 境目がわかりにくい、凸凹感じる
- しこりが動かない
▼乳がんの症状の特徴
- 乳房に凹みができる
- 乳房にただれができる
- 乳頭からの出血や血の混じった分泌物
- わきの下が腫れる
など
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35~50歳の発症が多い
乳腺症は、ホルモン分泌が盛んな35~50歳台の女性に多くみられます。
閉経後に乳腺症が発生するのはまれです。
痛みや硬結などの症状は、月経前に強くなり、月経とともに軽減、終わる頃には緩和されることが多いです。
乳腺症を起こしやすい人
- 出産後の授乳期に、「乳腺炎」を発症した人
- 授乳していない人・授乳期間が短かった人
- ストレスが多い人
乳腺症のセルフケア
乳房が痛いときのセルフケア
市販の鎮痛剤を使用できます。
生理が終わる頃には、痛みも取れることが多いのでマッサージなどは必要ありません。
長引く場合は、自己判断せずに医療機関で相談してください。
医療機関では痛み止めの処方も可能です。
胸のしこりのセルフケア
乳腺症と診断されている場合は、しこりのケアは必要ありません。
痛みがある時にマッサージを行うと悪化することもあるので、安静にしましょう。
ただし、乳腺症のしこりと似たような症状で乳がんを発症することがあるので、1年に1~2度は検診を受けましょう。
乳頭の分泌物のセルフケア
外に出るときはパッドをつけ対応しましょう。
入浴時には、清潔にしてください。
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病院では、どんな対処をするの?
乳腺症は、基本的には積極的な治療を必要としません。
半年に一度のペースで、経過を観察するケースが多いです。
乳房の痛み・ハリ感が強い場合には、対症療法(でている症状を和らげる治療)が行われます。
▼治療例
- 漢方薬の処方
- ホルモンバランスを調節できる低用量ピルの処方
- しこりから水を抜く処置 など
何科に相談に行けばいい?
乳腺外科で受診しましょう。
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乳がんの発症は非常にまれだが…
乳腺症は、
- 細胞が増殖しない(非増殖性病変)
- 細胞が増殖する(増殖性病変)
次の2つに区別されます。
乳がんになる可能性があるのは、「増殖性病変」の方ですが、乳腺症のほとんどが「非増殖性病変」であり、多くは乳がんとは関係がない“しこり”です。
しかし、100%心配ないとは言い切れないため、しこりなどの自覚症状がある場合には、念のため医療機関を受診してください。
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2021-08-31
「更年期になって、脇が痛みだしたけど大丈夫?」
「押すと痛い!」
原因には“乳がん”や“乳腺症”といった病気も考えられます。
当てはまる症状がないか確認してみましょう。
病院に行く目安も併せて解説します。
「更年期の脇の痛み」はなぜ起こる?
更年期のホルモンバランスの変化が乳腺に影響を与えると、脇に痛みが起こる場合があります。
乳房周辺に症状が出やすいため、胸に違和感が出る人もいます。
この痛み…大丈夫?病院行くべき?
更年期障害が起こる時期と乳癌が起こりやすい年代は近いので、
今まで経験したことのないような痛み、気になる痛みについては病院に相談しましょう。
ただし、脇の下の痛みや異常は「乳がん」の可能性もあるからです。
特に注意すべき「乳がん」の症状
脇の腫れや痛みに伴って
乳房に硬いしこりがある(痛みはない)
胸にえくぼのようなくぼみができる
乳頭から血液が混ざった分泌物が出ている
という場合は速やかに、医療機関を受診してください。
上記症状には、乳がんが疑われます。
乳がんは命に関わる病気であるため、早期治療が重要です。
何科で受診すればいい?
更年期に胸が痛むときは、乳腺外科を受診しましょう。
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考えられる2つの病気
更年期に脇が痛むのは、
乳腺症
乳がん
といった病気が考えられます。
病気① 乳腺症
乳腺症とは乳腺に起こる生理的変化で、良性の病気です。
胸の張り感が強まると、脇が痛むことがあります。
ホルモンバランスの乱れが原因で発症することが多いです。
痛み方の特徴
引っ張られるような痛みを感じる人が多いです。
うつ伏せ寝など、胸が圧迫されている体勢だと痛みが強くなります。
また、腕をたくさん使ったあとに、痛みが強くなるケースもあります。
こんな症状は出ていませんか?
胸が張る
いつもより胸が大きくなる
胸の表面にしこりができる
胸の表面に凹凸があらわれる
どんな人に多い?
50歳ごろの女性
生理周期の変動がある人
どう対処する?
決まった時間に起きて、眠る
一日7時間程度の睡眠をとる
食事は3食をバランスよく食べる
適度に体を動かす
趣味に没頭するなど、ストレスを溜めない
上記の対処で生活習慣を整えて、ホルモンバランスの変化の影響が大きく出ないようにしましょう。
ただし、脇の痛みが14日以上続く場合は、医療機関に相談しましょう。
乳がんに症状が似ているため、注意が必要です。
病院は何科?
乳腺症が疑われるときは、乳腺外科を受診してください。
乳腺症の治療では、定期的に受診してもらい、変化がないかを見守っていきます。
痛みが強く、日常生活に支障がでている人には、痛み止めや漢方を処方します。
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病気② 乳がん
乳がんは乳腺の組織にできるがんです。
乳がんで脇の下のリンパ節が腫れると、脇の下に痛みが起こります。
女性ホルモンの分泌期間が長くなることが原因だと考えられています。
また、遺伝や生活習慣(喫煙・運動不足・肥満など)も発症に関わっています。
痛み方の特徴
脇の下が腫れぼったくなり、異物があるような痛みを感じます。
脇の下や脇の奥を強く押したり、無理に動かしたりすると痛みを感じやすいです。
こんな症状は出ていませんか?
乳首と乳房がただれる
乳首と乳房がへこんでくる
血液がまじった分泌物が乳首出てくる
胸の形が左右で変わっている
乳首の位置がずれてくる
乳房の中にしこりができる
どんな人に多い?
初潮が平均年齢(10~15才)より早く来た人
閉経が平均年齢(50.5歳)より遅かった人
出産・授乳未経験の人
乳がんを発症している血縁者がいる人
喫煙習慣がある人
運動をしない人
肥満傾向の人
どう対処する?
残念ながら乳がんはセルフケアでは治りません。
転移すると命に関わりますので、早急に医療機関を受診してください。
胸に違和感を覚えたら早急に医療機関を受診しましょう。
病院は何科?
乳がんが疑われるときは、乳腺外科を受診しましょう。
医療機関では、手術・放射線治療・薬物治療などを行います。
病状の進行具合に応じて、治療方針が選択されます。
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※記事中の「病院」は、クリニック、診療所などの総称として使用しています。
▼参考
国立がん研究センターがん情報サービス 乳がん
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2020-10-06
片方の乳頭から分泌液が出た!
これって大丈夫?もしかして…病気?
乳首から液体が出る理由を、お医者さんに聞きました。
考えられる病気の可能性も解説します。
なぜ?片方の乳頭から分泌液が出る原因
通常は、出産により分泌物が出るようになります。母乳が分泌され始めるのは、妊娠後期の出産間近の数週間〜出産後です。この時期に乳頭から分泌物のは生理的なことです。
出産以外でも分泌物が出ることも場合によってはあるのですが、
・片側の乳頭のみから分泌物がでる
・分泌物に赤や茶色など血液が混じる
という場合には、そちら側の乳房に腫瘍ができている、異常があるなどの原因があると考えられます。
これ、大丈夫なの?
片方だけの場合は「要注意」です。
他に判断するポイントとして、分泌液の色に注目してください。
あまり心配のいらないケース
透明または白っぽいサラっとした液体が両方の乳頭から少量出ている場合は、あまり心配の要らないケースが多いです。
白いカスのようなものが下着についたり、うっすら湿っていたりする場合です。
この場合は、乳頭への刺激や、ホルモンバランスの変動によって分泌液が出たと考えられます。
病院に行くべきケース
赤、茶色いなど血が混ざっているような色であったり、明らかに血の混ざったものが出ている場合は、注意が必要です。
また、色や質感だけでなく、片方だけにその分泌物が出ている、乳房にしこりが確認できる、刺激を与えていないのに分泌物が出てくるといった場合も注意が必要となります。
このような症状がある場合、
乳がん
乳管内乳頭腫
乳腺症
といった病気が原因の可能性があります。
次から、それぞれの症状について解説します。
病気①乳がん
乳腺組織にがんが発生した状態です。
乳管からの発症が多いとされています。転移しやすい場所は、乳房に近いリンパ節・骨・肺などです。
<分泌液の特徴>
赤色〜茶色っぽい(血が混じっているような色)
片方の乳頭から出てくる
<その他の症状>
しこり(痛みを感じないことが多い)
乳房の皮膚が一部引きつっている
乳首の形や向きが左右で変わってくる
陥没乳頭でなかったのに、陥没してくる
乳がんの発症リスクが高い人
女性ホルモンである、エストロゲンが関わっていると考えられています。体にエストロゲンがある状態が長くあることが、乳がん発症の引き金の一因となります。そのため、若年層よりも40〜50代で発症率は上がります。
「エストロゲンを含む避妊薬を使用している」「閉経後にホルモン補充療法を受けている」などが発生のリスクをあげます。
また、「初潮が早かった、閉経まで長い人、出産経験がない、授乳していない」などのエストロゲンを長期間、体内に発生させている状態も発症リスクが上がるとされています。
遺伝的要因の場合もあります。親族のなかに癌の人がいないか、いる場合には何の癌であったかは確認しておきましょう。
他にも、飲酒、運動不足、閉経後の肥満といった生活習慣も発症率を上げます。
※乳がんは女性特有のものではなく、男性にも発生します。
病気②乳管内乳頭腫
母乳を乳頭まで運ぶ乳管という組織の中に腫瘍ができている状態です。
腫瘍は通常良性です。乳頭に近い、太めの乳管に発生することが多い腫瘍です。
<分泌液の特徴>
透明
黄色
赤や茶色など(血が混じっている)
<その他の症状>
乳頭周辺の乳管に腫瘍、しこり
乳管内乳頭腫の発症リスクが高い人
はっきりした原因は、未だ不明です。
女性ホルモンが一因となっていると考えられています。
病気③乳腺症
女性ホルモンのバランスの乱れが影響し、乳腺に様々な症状が現れます。
女性は、生理や妊娠などに伴い、女性ホルモンが大量に分泌されますが、その分泌に伴い乳腺が反応する状態が乳腺症です。
しこりができることもあります。しこりは通常良性です。
<分泌液の特徴>
透明
乳白色
両側性のことが多い
<その他の症状>
乳房の表面に触れると分かる状態の凸凹を感じる
乳房の痛み
乳房の腫れ
乳房のしこり
しこりが痛む
乳腺症の発症リスクが高い人
30〜50代の女性に多いとされています。
生活習慣や年齢に関係なく多くの女性に現れる乳腺の症状です。
不安な症状は早く病院へ
乳がんなど重い病気が原因であった場合、早期に発見することで完治の可能性が高くなります。
受診するのは何科?
乳腺外科を受診しましょう。
※病院によっては外科での診療となります。
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参考
国立がんセンターがん情報サービス 乳がん